恋愛映画?「この世界の片隅に」感想・評価

「君の名は。」がオカルトではなく恋愛映画だと言うなら「この世界の片隅に」こそ恋愛映画だと思った。もちろん中身は全然違う。「君の名は。」は恋愛が成就し、恋愛関係が始まるまでのオカルトであり「この世界の片隅に」は時代的に結婚から始まる恋愛だった。見知らぬ土地の家庭へ嫁入し、いざこざがありながらも旦那とその家庭との関係を築いていく。それが当時の結婚だろうし、現代で言うところの恋愛にあたる(現代にも結婚してから恋愛が続く夫婦だっているだろう)。

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「この世界の片隅に」は人生

ただこの映画にはそのような恋愛要素が多分にあるものの、それしかない恋愛映画、とは言えない。時代は太平洋戦争に突入する。戦争が物語に大きく関わってくるけれど、戦争映画とも言えない。あの時代に生きた一人の人間の、人生を物語る作品と言ったほうがいい。そういう意味では非常に大きな作品であり、いろいろな要素の調和が取れた物語だった。

一人の女性が生きた世界

この映画は、すずというぼんやりした女性が体験した世界を現している。絵を描くのが好きで、垢抜けない、おっとりしていてどんくさく、素直で真面目で、あれこれ考えるよりはそのまま受け止め、表に出す。天然とまではいかないが、そういう素直な明るさを持つすずから見た、あの頃の日常風景が広がっている。絵日記のようでもある。この時代にあったこと、彼女の周辺で起こったことも、彼女の目に写っていないものは出てこない。この人が誰と関わり、何を見て、どう感じ、それをどう表現するかということにこの映画は徹底されている。

幸福な物語

すずは若くして余所の家に嫁ぎ、戦争も起こってつらいことや大変なことも経験するが、暗い映画ではなかった。それはこの映画がすず自身を通して見た世界だったからであり、彼女の人生が暗さ一辺倒ではなかったからだろう。環境の変化についていくのに大変で、我慢したり自意識がついていかなかったり、感情が爆発する場面もある。それでも人との関係に支えられ、感謝をする。ここにあるのがまさに人生の起伏であり、幸福であるように思う。この映画は2時間ちょっとだったが、この人間の生活風景をいつまでも見ていたいと思った。

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余談

日常がテーマ

この映画の日常(生活)を描くのに徹底していたところは、谷崎潤一郎の「細雪」なんかに通じるものがあるんじゃないかと思った。戦争は本来なら非日常なんだけど、空襲警報が多すぎて睡眠不足になったり、慣れてきて避難しないときがあったり、生活感が凄い。いわゆる非現実感であったり、劇的な感じが全然なかった。生きていれば身近な人が死ぬこともある。そういったことも含め、どんな状況にいても人間がやることは生活、と言われているようだった。

「のん」の演技

主人公すずの声優をやっている「のん」こと能年玲奈の演技が好評で、見てみて思ったのは、主人公すずの声を演じているという感じは全くなかった。僕は「あまちゃん」を見ていたから知っているけれど、声は能年玲奈の声そのままだった。しかし、すずの役は思いっきり演じていた。だから声の演技というよりは完全に役者の演技だった。絵の動きと全然違和感なく合わさっている。

絵と映画館

絵については、こういうタッチの薄いアニメを見るのが初めてだった。というかアニメ映画を映画館で見るなんてことがほとんどなく、最近は映画館で映画を見ることも滅多にない。映画館はやっぱり音響が良かった。絵も悪くなかった。僕が見たのは京都の立誠シネマという木屋町にある旧小学校の3階で、入れる人数も少なく正直不安だったが、イス以外は問題なかった。平日の昼12時に行ったのに満員で、終わって劇場を出たら次の放映時間を待つ人でいっぱいだった。

この世界の片隅に | 立誠シネマプロジェクト

評判や予告映像

「この世界の片隅に」も評判がこれほど良くなかったら見ていなかっただろう。前評判が良すぎてハードルが上がり、期待外れに終わる作品は結構多いんだけどこの映画は良かった。それでも、できれば予告も何も見ないで行ってほしい。NHKで特集組まれたり映像を流したり雑誌に載ったりいろいろ紹介されているが、そういう予備知識を持たないで見たほうがやっぱり良い。予備知識に触れるのはむしろ映画を見た後でいいと思う。批評家に流されてありきたりな感想を抱く前に、是非自分でじっくりこの映画のことを考えてみてください。

山本寛 - 『この世界の片隅に』・評 - Powered by LINE

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制作秘話

絵コンテでは既に完成していたが、制作費の関係で削られた幻の30分があるらしい。そして、映画が評判になり興行成績が良くなったおかげで、ディレクターズカット版が制作されるという噂だ。監督はこの映画を作るのに6年費やし、当初は資金がなくて自分の貯金を崩し、夜行バスで毎日呉市に通って家族4人の一食分の食費が100円しかなかったときもあるそうで、興行収益なんて利益にしてしまえばいいものの、カットした30分をどうしても作りたいそうだ。その片淵監督とは「魔女の宅急便」を降ろされた監督で、宮﨑駿に唯一反論できる人だったとか、そういう裏話を岡田斗司夫ゼミで聞いて面白かった。

原作マンガ

原作はアクションという雑誌で連載していたマンガらしい。読んでいないが、結構違うそうだ。でも原作読んだ人も「映画は映画で良い」という意見しか聞かない。