「日本人の英語」は難しすぎる

「日本人の英語」を読んだ。難しい。何が難しいかって、日本人が英語を習得することが難しい。著者のマーク・ピーターセンはアメリカで英米文学、日本文学を専攻し、現在は明治大学で教授をしている。バリバリ日本語を話し、この著書も自ら日本語で書いたものだ。そんな日本語が堪能なアメリカ人から見た、日本人が間違えやすい英語、理解しにくい構造がまとめられている。まさに日本人のための英語学習指南書。特に冒頭の章はインパクトが大きい。

Last night, I ate a chicken in the backyard.
昨夜、裏庭で鶏を一羽つかまえてそのまま食べてしまった。

これをみたときの気持ちは非常に複雑で, なかなか日本語では説明できないが, (中略)夜がふけて暗くなってきた裏庭で, 友だちが血と羽だらけの口元に微笑を浮かべながら, 膨らんだ腹を満足そうに撫でている――このように生き生きとした情景が浮かんでくるのである. p10

冠詞、単数、複数

この文の正解は"I ate chicken"で鶏肉のバーベキューをしたことになる。chicken の前に a がついただけで、生きた鶏をつかまえて食べたことになった。この a とか the という冠詞は本当にわからない。シェイクスピアの『間違いの喜劇』という劇があるそうだが、英語に訳せるだろうか。The comedy of the error? A comedy of an error? このcomedyとerrorに冠詞をつけるかつけないか、単数か複数かで全て意味が異なり、その組み合わせは25通りもある。難しいというかなんというか、もうわけがわからない(正解は『The comedy of Errors』)。その使い分けが本書で詳しく解説されている。

ネイティブスピーカーにとって,「名詞にaをつける」という表現は無意味である. (中略)もし「つける」で表現すれば,「aに名詞をつける」としか言いようがない. 「名詞にaをつける」という考え方は, 実際には英語の世界には存在しないからである. p12

最終的には「文脈が全て」と片付けている。「英文を読み込んで慣れろ」と。様々なパターンに触れて正解に近づけていくというビッグデータを元にしたAI翻訳のやりかたですね。

前置詞

The article was written by a word processor.
その記事はワープロ自身によって書かれた。 p58

この文の正解は"written on"で、言われてみればそうだ。しかし「その記事はワープロ書かれた。」という日本語を英語で書こうとするとついbyを使ってしまう気持ちもわかる。written by の後に「書いた人」が来るのは知っている人も多いと思う。受動態のbyは動作の主を示し、行為者が来ないとおかしいそうだ。

では written on のonはというと、伝達手段や処理のプロセスを導き、上を通って運ばれるイメージらしい。「その記事はワープロという手段を通じて書かれた」から written on a word processor になるという。そういうイメージを頭の中に描くことができれば間違えずに済むが、英語の語句と日本語訳を照らし合わせて覚えているだけでは到底太刀打ちできない。

前置詞は他に in と on の使い分け、get in と get on(どちらも"乗る")は運転手との距離感の違いにあるとか、名詞+ofと名詞'sの使い分けなども解説されている。

University of Meiji Tennis Club
いうまでもなく, 明治大学のことを英語で言えば正確な名称は Meiji University であり University of Meiji (明治な大学)という英語はありえない. p82

自然な英語は、英語的発想から生まれる

他にも現在完了形は現在に影響を残しているが、過去形は既に終わったことで、進行形は状態をいきいきと描写するとか、関係詞の有効な使い方、副詞の論理構造など、英語で表現するにあたって必要なことが述べられている。著者は大学の先生だから、特に英文を書く際の基本的な文法を解説しているが、これらが会話において問題にならないかというとそうでもない。会話はノリでなんとかなることも多いけれど、まともな英語を志すなら文法はやはり無視できない。

まともな英語を導き出すのは英語的発想であり、日本語的発想を元にする日本語訳から解き放たれた英語だ。よく英語脳とか英語で考えると言うが、日本語で考え英語を学んでいるうちは自然な英語にたどり着けない。まずは英語的考え方、英語の仕組みを学び、英語的発想を理解する。その後はひたすら読んで見て聞いて、書いて話して慣れる。それにしても難しい。

マーク・ピーターセンは今回読んだ「日本人の英語」以外にも書かれているようだ。

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英語学習のYouTubeはこれとかがいいと思います。

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