僕らは千原ジュニアを20年前から知っている

20年前

20年前というと1994年、その年の出来事はルワンダの内戦、ボスニア紛争、アイルトン・セナの事故死、マンデラが大統領など、音楽で言うと広瀬香美の「ロマンスの神様」、trf、イノセントワールドなどが流行っていた。当時僕は小学生だった。
千原兄弟は関西圏で既に冠番組を持っていた。僕は京都に住んでいたから見れなかった番組も多かったけれど、土曜日の深夜にやっていた"すんげーbest10"なんかは欠かさず見ていた。僕ら関西圏の人間にとって、千原兄弟は20年前からスターだった。千原兄弟を好きなことがかっこいいとさえ思っていた。これは特に若い層には顕著だっただろう。僕らの世代で、特に大阪において20年前に千原兄弟を知らないなんて言う人はいなかった。
どれぐらい人気があったかというと、WA CHA CHA LIVE in大阪城ホールというお笑いライブで3万5000人動員した。それらはまとめて第三次二丁目ブームと呼ばれた(第一次がダウンタウンを中心とした「4時ですよーだ」、第二次がナイティナイン・雨上がり決死隊などがいた天然素材ブーム)。
ダウンタウン、ナインティナイン、の次は千原兄弟だと思っていた。というのもダウンタウンがちょうど「ごっつ」を辞め次のステップへ、ナイティナインは「とぶくすり」から「めちゃモテ」への移行期、それら東京の登竜門に当たり前のように千原兄弟も入っていくものだと思っていた。松本人志は「自分たちの後にフリートークとネタの両方おもしろい芸人がいない」と言っていたが、それができる芸人は千原兄弟の他にないと思っていた。数年前から千原兄弟は全国区でレギュラー番組を沢山持ち、おそらく今知らない人は誰も居ないと思うが、彼らを20年前から知っている僕たちからすれば、この今の千原兄弟の姿は20年前に僕らが当たり前のように思い描いていた姿で、何の違和感も不思議もない。みんなこうなることを知っていた。

大阪という特殊な地域

僕は北海道のことも大泉洋のことも詳しく知らないけれど、千原兄弟が大阪でカリスマと呼ばれていたことと、北海道で大泉洋がスターだったこととは少し規模が違うと思う。ローカルスターの枠で収まらない。
大阪にはお笑いの劇場がたくさんあり、ローカルテレビ局、ラジオ局主催の漫才コンテストがあり、お笑い文化というのは極めて一般的に浸透している。誰もが子供の頃には日曜日の昼間に新喜劇を見ていたんじゃないだろうか。そしておそらく全ての若者、少年から女子高生に至るまで、誰か若手芸人のファンであった。
東京では名前も知られてない芸人が大阪でスターだったという背景にはこの地域に根付いたお笑い文化にある。東京にもお笑い文化や劇場はあると思う。しかしおそらく、お笑いというジャンルは、演劇や映画、ポップス以外の音楽同様一部の好きな人がハマるものではないだろうか。大阪におけるお笑いの位置とは全く違うものだろう。
大阪においてお笑いは全員が関わる事柄であり、おもしろい奴が、見た目がいいやつより頭がいいやつよりバンドで人気のやつより金持ちよりも誰よりもかっこよかった。関西お笑い文化圏という閉ざされた、特殊で大規模な舞台で20年前、千原兄弟は誰もが憧れる若手のトップだった。

何を思うか

正直なところ、昔の千原Jr.が好きだったという人も多いと思う。心斎橋二丁目劇場の頃の千原ジュニアがジャックナイフと呼ばれていた事は有名だが、彼の芸風もまたキレキレであった。何故そんなに彼は怒っているのだろう。尖っているのだろう。そのトークにはチンピラのようなエピソードにあふれかえっていた。

今でも千原ジュニアの笑いというのは怒りや違和感をベースにしたものが多いが、過去においてはその感性がより鋭かったように思う。若かったこともあるだろう。まさにナイフを突きつけるようなトークで、それがお笑いであっても単純にかっこよかった。
東京進出後、長い間千原兄弟をテレビで見かける事がなかった。たまに関西ローカルの番組にゲスト出演しているのを見かける程度だった。そして事故があり、それは僕らが想像していたような、当たり前の登竜門ではなかった。僕は今の彼らの地位を簡単に約束されていたように言ったが、実際は血で血を洗うような死線をくぐってきただろう。
僕が千原兄弟に思うことは、僕はずっと憧れていたし本当におもしろいことをずっと知っていたということ、テレビで見かけなかった間も、ナインティナインではなくロンドンブーツでもなく千原兄弟こそがポストダウンタウンだと言っても誰も疑わない日が来るということをずっと信じていたこと、そしてそれが実現したことを当たり前のように思う反面、ファンとして本当に嬉しく思う。

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