仕事で自己実現はあきらめた

僕らの世代以上だと、多分多くの人が、仕事で自己実現しなければいけないと思っているだろうし、もしくは仕事で自己実現したいと思っているだろう。スティーブ・ジョブズのスピーチでもそんなことを言っていた。僕もそう思っていた。何かしら一旗揚げようなどとは考えていなかったが、この世の中で生きていくには、仕事で自己実現を目指さないといけないのだろうな、ぐらいに思っていた。それが当たり前のことだと。

仕事で自己実現とは、何も経済的に成功することだけを意味していない。そうではなく、ただ仕事を通じて、何かを成し遂げるとか、自分という存在に確証を得るとか、誇りを持つとか、そういうのが自己実現にあたると思う。日本的な言葉だと、一人前になると言ってもいい。いっぱしの存在になるなら、現代社会ではまあ仕事を通じてということになるのではないか。

仕事を通じて自己実現をするためには、手応えを感じていなければならない。ただ仕事をこなすだけではなく、そこになにか矜持であったりが必要になってくるだろう。僕はそれがあまり育たなかった。何をしていても、時間をかければ上達はしていたと思う。具体的な結果にも現れていた。でも、そういうのはあまり関係なかった。自分はそういうのから下りたいと思っていた。

そのうちにもう、仕事で自己実現しなくてもいいんじゃないかと思えてきた。やりたい人だけがやればいい。仕事で自己実現することが社会の構成員として求められていることなら、僕は社会から出る。じゃあ他に何で自己実現するのか。もう自己実現そのものを目指さなくなった。何かを成そうなどとは思わない。時間がくればくたばるのみ。

どこかの段階で、何者かになりたい、何者かにならなければいけないと思っていた。自分は何者でもない自分に立ち返った。