ジューン・ブライド

ブライダルのブライドで、ブライトではない。僕はずっとブライト(艦長)だと思っていた。

確か、夏至は6月だった。ジューン・ブライドはヨーロッパかアメリカか知らないけれど、6月の最も日が長くて気候がいい時期の結婚式が人気だとか縁起がいいとか気分が晴れやかとかそういうやつだったと思う。残念ながら日本は梅雨の季節で、6月に結婚式など挙げようものなら雨降るわ暑いわジメジメするわでとても晴れやかな気分どころではない。それでもジューン・ブライドという言葉を僕でも知っているぐらいだから、みんな6月に挙げているのだろうか。うちも披露宴と二次会の中間的なパーティーは6月だった。

1年のうちで一番いい季節は、ジューン・ブライドの国では6月なのだろう。カナダのトロントに2年間滞在したことがあり、確かに6月は良かった。ただ天気がいいというだけで、街中が毎日お祭り騒ぎだった。上半身裸の男性も多く見かけた。ちょっと広めの公園は、ピクニックを楽しむ市民であふれかえっていた。トロントの夏は短く、6月にピークが来て8月は既に寒い。短い夏を目一杯楽しむ習慣がある。

日本で過ごしやすい季節はいつだろう。京都は桜の季節と紅葉の季節が観光シーズンとなっている。秋は修学旅行生も多い。名所があるから仕方がないが、旅行者が多い時期は過ごしやすい季節とは言えない。それは地元の人間にとって、というだけでなく旅行者にとっても同じ。移動も観光地も宿泊先も飲食店も、とにかく混雑する。

日本で一番過ごしやすいのは、僕は5月だと勝手に思っている。寒すぎず暑すぎず、日も長い。ゴールデンウィークを過ぎたあたりがいいんじゃないか。晴れた日は本当に過ごしやすい。梅雨さえなければ、ジューンブライドも惜しいところだった。だからその手前の5月が、日本で一番過ごしやすい時期だと思う。世間ではちょうど、五月病と言われる時期。

五月病は、その気候の良さも影響している。世界はこんなにも素晴らしいのに、なぜ俺はオフィスにこもって仕事をしているんだ、というその反動というか、天候の良さと身の上のつらさのギャップが余計に症状を重くしているのではないか。花見的な宴会は5月のほうが向いている。桜は散っているが。

僕は長年(30年以上)花粉症を患っており、5月がいい季節だなんてとても言えなかった。花粉症のピークは3月だけど、5月になっても種類が変わるだけで症状は残っている。ここ数年は薬で抑えており、ポケットティッシュを持ち歩かなくてもたいていは困らなくなった。今やっと、5月がいい季節だと言える。

5月にもなると、夏に向けての高揚感もある。梅雨になると気持ちは下がってしまうが、その手前ではまだ盛り上がっている。夏よりも冬の寒い時期のほうが好きという人のことをレックさんは信じられなくて、「ハワイとシベリアだったらシベリア選ぶってこと?」と言っていた。暑いのや日差しが苦手な人とか、ウィンタースポーツ好きな人に冬派が多い。シベリアはなくても、ハワイよりフィンランドを選ぶ人だったいるんじゃないか。アキ・カウリスマキの映画で見たヘルシンキの街は、ひどく寂れていた。

冬に寒いところへ旅行したことが、二度あった。雪山ではなく観光旅行。カナダのトロントから、ケベックへ旅行した。あれは冬に行って良かった。国内も北海道へ行った。11月だったからまだ本格的な冬ではなかったけど、雪は降っていたし積もっていた。それ以外の旅行はだいたい夏か、暖かい土地。日が短い季節は、どこもだいたいオフシーズンだったと思う。観光客がいないから、飛行機もホテルも1年で一番安い。でもオフシーズンは店が開いていない。