「逆さまの森」のネタバレ感想

今年に入ってから「彼女の思い出/逆さまの森」を読み始めて、読み終えた。最後の「逆さまの森」がひときわ印象的だった。他はもっとスムーズに、心地よく読める。以前の翻訳では「倒錯の森」というタイトルだった。読んだことがある人もいるかもしれない。僕も「サリンジャー選集3」で以前に読んでいたはずだけど、あまり記憶に残っていなかった。今回のも、翻訳が良かったんだと思う。

「逆さまの森」はひどい話だった。世の中にありふれているとまでは言わないものの、既視感のあるひどい話。まあ一言で言ってしまえば、いわゆる寝取られの話。僕はこういう話って、やっぱり吐き気がするぐらい嫌悪感が募る。オタク界隈で言うところのネトラレ属性って、まったく気が狂ってるとしか思えない。そういう人は、本当にそこまで遊び尽くして性に奔放なんだろうか?

僕が「逆さまの森」を読んで感じるのは恐怖で、世の中にこういう人が実際いることも知っている恐ろしさ、いつ自分の身の回りに現れるかもしれないおっかなさ。事故や災害、犯罪への恐怖に近い。羆嵐の事件を知った時の恐怖にも近い。ただ自分はクマがいる地域に住んでいないから、この恐怖は遠ざけられる。「逆さまの森」はいつ自分の身の回りで起こるとも知れない嫌さ。

幸いなことに、今のところそういった災害級のヤバイやつとは知り合ったことがない。周りでも聞いたことがないから、そうやたらめったらそこら中に出没するわけではなさそうだ。ただ話には聞いたことがある、それもフィクションではない事実として。この手の人物はフィクションにもよく描かれるし、実在もする。

そういう極めて不快な、恐ろしい話を怖いもの見たさで読みたければ、「逆さまの森」どうぞ。作品としてはおもしろかった。この手の人物に慣れている人は、そんなに不快とも思わず驚きもしないと思うから、僕の反応が過剰なだけかもしれない。不倫報道があるたびに、人がなぜ不倫をするのか考える。「彼女の思い出/逆さまの森」は、グラース家ともコールフィールド家とも関わりのない、それ以前に書かれたサリンジャーの短編集。