葬送のフリーレンはなぜこんなに面白いのか

アニメがもうすぐ終わるそうだ。僕はこの先の「黄金郷のマハト」編がけっこう好きだから、ぜひ続きもやってもらいたい。原作はサンデーうぇぶりで読める。今も続いている。

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葬送のフリーレンはなぜこんなに面白いのか、なんて話はきっと出尽くしていて、アニメが話題になってから今さらだし、僕はそういう考察が得意なわけでもなんでもなく、思ったことを残しておく程度。出遅れて今から入る人には参考になるかもしれない。あ、ネタバレはしてます。

主人公が最初から最強(無双)

タイトルの通り主人公はフリーレンで、エルフの魔法使い。元勇者パーティーのメンバーで魔王を討伐済み。常に戦っているような物語ではないけど、主人公とその仲間たちは最初からずっと強い。主人公フリーレンは圧倒的な最強のポジションとして話が進んでいく。なんなら序盤に弟子をとり、弟子と旅に出る。

強い主人公が無双する様子を爽快に描く、という展開自体はそんなに珍しくなくなったけど、それを面白く語るって難しいんだろうな。ゲームやってても強くてニューゲームが必ずしも面白いとは限らないのと同じで。じゃあなんでフリーレンが面白いのか。なんかちょっと不安にさせる隙を見せるからかもしれない。「大丈夫か?」と一瞬思わせといて、「なんだ、全然大丈夫じゃないか」という安心展開に持っていく。あれかな、半沢直樹、スカッとジャパン的な図式でもあるのか?どっちも見てないから知らないけど。

主人公の弟子がもっと最強

これはまあ、少年マンガの王道ですね。師匠を超える弟子。でも普通そういう少年マンガの場合、その弟子のほうが主人公だったりする。この物語の弟子フェルンは飽くまで主要メンバーであって、主人公ではない。フェルンが主人公だったらもっと地味なストーリーになるかな。孫悟飯パターン。フェルンは年齢的にも性格的にも幼く、その理不尽さが読者男子には不評な様子。

ポテンシャルは師匠を上回るんだけど、でもフリーレンはまだどこか秘められた強さがあって、それを小出しにしてくる。やっぱり師匠には叶いません、という構図も少年マンガの王道。でもなんか新時代の幕開けを匂わせるフェルンは、愚地克巳が叶わなかった最終形態かな。

少しずつ謎が明らかになる展開

物語が進むに連れ、主人公の過去が明かされていく。主に勇者パーティー時代の主人公と、勇者ヒンメルを中心とした仲間たちと過ごした日々が描かれる。ちなみに討伐された魔王のことは、まだほとんど何もわかっていない。シルエットも出ていなかったと思う。

フリーレンが魔法使いになった経緯や、フリーレンの師匠が過去回想で登場したり、そのまた師匠も登場する。物語自体は未来に進んでいくんだけど、それ以上に明らかになる過去の方が分量として多い。いろんな疑問が散りばめられていて、それらが徐々に明らかになっていく構造はミステリ的に気持ちいい。

きっとこの先どこかで魔王との決戦も描かれるであろうと期待している。それは過去であって、パーティーの誰も欠けることなく勝利するという決着が最初からわかっている。それでもどんな戦闘をしたのか、単純に気になる。勇者ヒンメルが、実は勇者の剣に選ばれなかった人物だったことは明かされているが、そこからどうやって名実共に本物の勇者足り得たのか、そこもなんとなく気になるところ。

緻密な世界設定

勇者、魔法使い、エルフといったRPG的な王道ファンタジー設定が前提にある。その上で魔族とはいかなる存在か、魔法使いとは、魔法とは、といった部分について「知ってるでしょ?」で終わらせるのではなく、オリジナルの作り込まれた要素がある。特に魔族と人間がなぜ絶対的に相容れないのか、共存できないのかという部分については、現実の宗教戦争を思い起こさせるほど徹底した掘り下げがある。

オリジナルの世界観がしっかりできあがっている分、そこに現実に存在する「ハンバーグ」とか「ゴリラ」といった単語が出てきて萎えたという意見もあった。そこは納得する。ファンタジーはファンタジーとして完結している方が、物語世界に没入しやすい。スターウォーズみたいに。

異世界転生の下地

言うまでもなく、フリーレンが誕生するまでの下地として数多くの異世界転生ファンタジーならびになろう系ラノベ原作ファンタジーがあったことは否めないだろう。お陰で物語に違和感なく入りやすい。

主人公無双系であることもそうだし、物語自体がスローライフと言ってもいい。フリーレンは物語が始まる前に魔王を討伐しているから、世界を救うような重要なミッションはない。趣味で魔法を集めながら水戸黄門のような旅をしている。これらは王道から外れたファンタジーとして、なろう系で登場した。

ダイの大冒険もロトの紋章も主人公は勇者で世界を救うのが目的で、頑張って悩んで努力して最終的に魔王を倒す。異世界転生やラノベによってファンタジーがしゃぶりつくされるまで、主人公が魔法使いのエルフの女の子で最強で魔王は既に倒していて、なんて設定の物語は成立しなかったんじゃないか。そういう亜種の作品が語られまくった下地のお陰で、このような物語が名作として存在し得る。

オタクの願望と共感の詰め合わせ

主人公フリーレンは、感情の起伏が乏しいコミュ障とも言える存在。世の中のことにあまり関心がなく、見た目は少女で1000年以上も生きる。人間の魔法使いに助けられ魔法を教わり、勇者に導かれ魔王討伐に加わり、人と共に生きることを知る。他人を知る。人生を知る。さらに物語序盤で仲間との別れ(老衰による死別)を経験し、弟子をとって人を育てることを経験する。物語上では恋愛も経験しそうなフラグが立っている。これはなんというか、語弊があるかもしれないけど、オタクにとっての人生のロールプレイではないだろうか。

フリーレンという姿形、スペックはきっとオタクの理想で、フリーレンの感情的部分には共感があるのではないか。そういう人物が人生を経験する姿に、文学的な何か、学びというか、物語に入り込むという体験をしているのだと思う。

けっこう書きなぐった。「なぜ面白いのか」の答えにはなってないかもしれないが、これだけいろいろなことが思いつく作品だということです。いやーまだまだこの先も気になるなー。僕は葬送のフリーレンを応援しています。

※追記:黄金郷のマハト編人気ないんだな…一番面白いと思ったのに。そりゃー僕と意見合うわけない。まあフリーレンにこの感じを求めてないって人がいても理解はできる。

フリーレンが「なめてた相手が実は最強でした」パターン当てはまるかは微妙なところ。作中ではあまりなめられてない。むしろ読者にミスリードを誘うところがある。