自転車置き場について

トロントでは、冬が終わると自転車の季節に変わる。もちろんすべての人が、というわけではないが、道路から雪がなくなるに連れて街に自転車が増える。
こちらで自転車に乗っている人というのは、ヘルメットやニーパッドなどを付け、リュックサックを背負い、スポーティなものに跨がり、そこそこの速度で車道を駆け抜けている。それもただの通勤や通学のために。 日本で言うところのママチャリは一般的ではない。だから自転車が多いと言っても、台数で言えば日本のほうが圧倒的に多いだろう。それは人口密度の違いや、トロントでは冬に乗れないことなどが関係していると思われる。

トロントでも、自転車が盗まれることは多いそうだ。いい自転車が多いからか、盗難防止のためにサドルを外したりする。タイヤだけ盗まれたりすることもあると聞いた。
トロントの街中には自転車を駐める場所がどこにでもある。それは、「駐められる場所」ではなく「駐めるための場所」であり、道路のあちこちに行政から提供されている。これがその無料駐輪場だ。

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大阪や京都、名古屋などの僕が住んでいたところにも自転車を駐めるための公共スペースがあり、必ず有料だった。僕はそれが嫌で仕方がなかった。
金額としては時間制で半日500円前後だったか、電車に乗るとだいたい同じ金額になる。そんなくだらないものに対してお金を払うのは嫌だったが、撤去されるよりマシだからしぶしぶ利用したことも僅かながらある。しかし基本的に、設置するのに金がかかったからかどうか知らなけれど、そんなものを行政が有料で提供している事自体とても嫌だった。電車に乗ろうが自転車に乗ろうが、駐輪場に駐めようが無断で駐めようが、どんな手段を取ろうと追い込まれて雁字搦めに行政から金を掠め取らている感じがした。

そして実際に、その駐輪場というのはあまり利用されていなかった。お金を取るため無駄に高機能な料金設備を備えていた分、赤字じゃないだろうか。 私企業であれば、財とサービスの交換ということで、利益が出るものを用意し、利用されなければ破綻して廃れる。しかし行政が税金を投入してそれに近い設備を作り、有料だから誰からも利用されなかったとしても、それは残る。維持費も残る。何故こうもくだらないものを作って利益を出そうとし、失敗するのだろうか。

そこに彼らの態度が思い浮かぶ。『自転車が邪魔という意見→駐輪場を設置するという案→高機能な設備で予算投下→回収案→有料』という経緯だろうか。コストのかかる大きな事業で、さらに利益を生みそうな案の方が通りやすいのだろうか。予算が大きいほうが民間に還元できる効用が大きいと思ったのだろうか。それとも、無料にすれば台数が増えすぎてキャパオーバーになり対応できないから有料にしているのだろうか。

いずれにしても、功を奏していない。駐輪場は設置したが利用されず、無断駐輪は減らず、撤去は依然として残り、挙句の果てに名古屋市では無断駐輪を注意するおっさんを雇っていた。彼らは誰かが道に無断駐輪をしていたら注意するという仕事をしている。朝と夕方だったか忘れたが、結構な数の人員が配置されていた。彼らがボランティアであれば僕はなんとも思わないが、もし公務員か何か、もしくは税金で雇われているとしたら、こんなに無駄なことはない。愚の骨頂だ。何もかもが無駄なお金となって、結果的に駐輪場の設置業者を除けば誰一人として得をしていない。

もし最初に簡易な無料駐輪場を設置していればそれだけである程度は解決していたのに、高機能で有料の設備を設置するという膨大なコストを費やし、利用されず無断駐輪は残り、撤去費用は減らず、はたまた膨大な給料を払っておっさんを雇ったところで解決なんかするわけもなく、凶悪な循環を作ってしまっている。正気の沙汰とは思えない。

もう一度トロントの自転車置場に戻る。自転車を駐めることができる場所、というだけの簡易な設備で写真の通り設置コストはかなり安いだろう。利用料は当然いらない。
この事業はトロントの自転車台数が少ないから成り立つのかもしれないが、仮に日本で台数が少なければ、こんな自転車置き場を設置してもらえるのだろうか。この途方もない差は一体どこから来ているのだろう。