デトロイトの感想を書く前にデトロイトってどういう場所なのかまとめておこう。
ゴーストタウン
デトロイトの街は何よりGM本社があり、フォード、クライスラー発祥の地であり、自動車産業で栄華を誇ったことが有名だ。その後日本車の台頭により崩壊、2009年にGMは日本で言う民事再生、会社更生法適用のような状態となった。各社は大量の従業員を解雇せざるを得なくなり、多くの下請けも倒産、街は失業者で溢れかえったが新たな雇用の見込みもなく、人々はデトロイトを離れた。
デトロイトの人口は180万から90万人に減り、街の空き家率は1/3、多くの家は売るアテもなく朽ち果て廃墟と化し、街全体もゴーストタウンと化した。
犯罪多発地域
それよりもっと前から、デトロイトは犯罪多発地帯として有名だった。労働者の格差によるものか、詳しくは知らないけれど経済が崩壊してからその状況は益々悪くなった。どれぐらい危ないかというと、アメリカ国内の危険な街ランキングで何度も1位に輝いている。2013年のニュースでは1位2位3位7位にデトロイトの地域がランクインした。
Worst Neighborhoods Violent Crime in the U.S. - ABC News
音楽の地
デトロイトは様々な音楽で有名だ。エミネムの8mileはデトロイトの話だ。映画を見たことがある人ならわかると思うが、あんな街だ。
モータウンというレコード会社もデトロイトで生まれた。モータウンという言葉自体がモータータウンの略語で車産業で勃興したデトロイトを指している。特に有名なのはマーヴィンゲイ、ダイアナロスなどの70'sニューソウルだろうか。街にはマーヴィンゲイの名前が公道の名前になっていた。
テクノ発祥の地としても有名だ。デトロイトテクノという言葉を聞いたことがあるだろう。僕はあまり詳しくないけど、デトロイトテクノと言えばメイデイというドイツの音楽イベントに名前を用いられたデリック・メイなどが有名。こういう曲。
黒人が多い
音楽の項目でもわかったと思うが黒人が多い。黒人が多い理由については1967年に起こったデトロイト暴動の影響により富裕層である白人が郊外に逃げて行ったことに端を発すると言われている。この現象の事をホワイトフライトと言うそうだ。
1967年に起きたデトロイト暴動ってどういう事件... - 世界史 | Yahoo!知恵袋
その後前述した経済の崩壊により、富裕層は郊外からも姿を消した。今やデトロイトは、まさに土地を離れることもできない黒人ばかりの街になった。何とその割合は8割!!
長くなったがここまでがデトロイトに関する予習だ。何でそんなデトロイトへ足を運んだかというと「すげえから連れてってやるよ!」という風にトロントニアンの友人から誘われたからだ。何がすげえのかと言うと、そのゴーストタウンの様子だと言う。トロントに居ては見られない街の光景だから一度見ておいた方が良いということだ。
初日、到着
トロントからデトロイトまでは車で約4時間、ミシガン州にあるデトロイトはカナダとアメリカ国境の街だ。ミシガン湖の橋を渡れば向こう側がデトロイトだった。ミシガン湖の下を通るトンネルもある。トンネルの中はタイル張りで銭湯のようだった。
デトロイトには夜10時に着いた。最初の印象は、思ったより普通だった。整備された街があり、道路があり、建物はカナダとは違い、アメリカだった。ニューヨークなどとは同じだった。GM本社のビルなんかはかつての栄華をというよりいまだにアメリカの車社会を根底から支えているようで威風堂々としていた。データが示すような、アメリカで一二を争う凶悪犯罪都市という印象は受けなかった。
国境の街にはナイアガラのようにカジノがある。ここデトロイトもそうだった。カジノと言ってもモナコやマカオ、ラスベガスのような本格的なものではなく、現金が返ってくるゲームセンターという感じだ。友人と一緒にカジノで少しだけ遊んだ。
その日気づいたのは、道ゆく人が本当に黒人ばかりだということだった。街の人もそうだし、カジノの中もそうだ。トロントとは全く違った。トロントにも黒人は普通にいるが、黒人ばかりということはない。ニューヨークも黒人は多いが、ここまでではなかった。黒人率8割の数字は伊達じゃない。僕みたいな東洋人、トロントに多いアラブ人なども皆無だった。アメリカなのに白人さえほとんど見かけないんだから当然かもしれない。
2日目、タクシー
翌日、いよいよ街へと繰り出すことになった。寒い。とにかく寒い。11月半ばのミシガン州デトロイトは吹雪いている。気温は-8℃。道行く人たちはこの寒い中でキャップにパーカーといういかにもな格好をしている。そして、人が少ない。昨日ここに着いた時は、夜で寒いからそんなに人が歩いていないのだろうと思った。しかし昼間でも全然いない。平日の昼間にダウンタウンで人が全然いなければ一体どこにいるというのだ?たまにポツポツとパーカーの人を見かける程度。ただ、人がいないと言っても車はそこそこ走っている。人は住んでいるようだ。寒いから屋外にいないだけかもしれない。
友人はタクシーを捕まえ、行き先を告げるわけでもなく
「壊れた街の様子が見たいからそういう所を周ってまたホテルに戻ってくれ」
とドライバーに言った。
ドライバーは黒人だった。
「なんだそれ?意味わかんねえけど、そんなのうちの近所にもたくさんあるぜ」
と言ってカジノからタクシーを走らせた。壊れた家々というのはすぐに出てきた。本当にすぐ近くだった。それもかなり沢山あった。大通りから脇道へ入れば車も全然走っていない。家はボロボロで屋根が落ちていたり燃やされた跡になっている。当然歩行者はいない、車は停まっているが中に人はいない。ああ、これがゴーストタウンだ。
「なんでこれらの家は燃やされているんだ?」
友人がドライバーに尋ねたところ、
「ああ、こういう廃墟が残っていたら不審者が住んだりそこでドラッグの取引が行われたりするから警察が燃やすんだよ。誰にも迷惑かけないし、その方が安上がりだろ?」
ギャング団の攻撃を受けたとか若者が遊びで燃やしたとかではないみたいだ。警察。
「これだけ家が余っていれば安く買えるんじゃないか?家はだいたいいくらぐらいだ?トロントで戸建を買おうと思ったら$300,000(3000万円ぐらい。日本とだいたい同じ)ぐらいするんだ。」
友人はまたドライバーに尋ねた。
「このあたりなら$15ぐらいじゃね?」
これ冗談だと思っていたら、ウィキペディアに「$1からある」と載っていた。
「ここは意味わからないんだけど何故か世界中から観光客が来るんだ」
そう言われて連れて来られたのはHeidelbergという場所だった。それまで"治安が悪いから"という理由でタクシーからは出なかったものの、ここはある意味観光地のようになっているためタクシーを降りて歩き、写真を撮った。人はいなかった。
The Heidelberg Project | Non profit | Open-Air Art | Art Education | Detroit
次にミシガン湖沿いの高級住宅街を走った。デトロイトにも立派な家や綺麗な街並み、洗練された建物は普通にあった。この辺りに住んでいる人は犯罪とも縁がないのかもしれない。何も街全体がゴーストタウンばかりではなかった。
「ここが俺の家だよ。母も娘もここに住んでいる。」
そう言われて見た家は、普通だった。金持ちではないかもしれないが、むしろ大きい家だった。なんでも祖父の代から住んでいるそうだ。
「ちょっと寄るとろがあるんだけどいいか?ドラッグ買いに行くんだ。」
これには友人と一緒になって爆笑した。友人はドライバーと一緒にそのドラッグハウスへ入っていった。僕は寒い中外でタバコを吸いながら待っていた。友人とドライバーはそれぞれ必要なものを買ってすぐに出てきた。
「あの中すごかったぜ!床も壁もボロボロなんだけど一箇所金属の扉が閉まっていて、鉄格子みたいな窓口があったんだ。中には黒人が片手にバットを持って座っていたんだぜ!ドライバーが「こいつはツレだ」って言ってくれて俺は葉っぱを買うことができた!」
僕たちがタバコを吸いながらそんな話をしていると、
「お前らなにしてんだよ?寒いから中で吸えよ!」
タクシーの中での喫煙を勧められた。え、いいの?トロントではあり得ない。日本でもあり得ない。でもここデトロイトでは運転手も一緒になって車内でタバコを吸い始めた。
「ストリップのいい場所知らないか?」
友人がドライバーに尋ね、郊外にあるストリップクラブへ連れて行ってくれた。
「帰る時間になったら電話してくれ!」
友人はドライバーと電話番号を交換し、僕らはストリップクラブへと入った。入った瞬間からマリファナ臭。まだ時間が早かったこともあり、客は7人か8人ぐらいしかいなかった。店員に2人ぐらい白人がいたものの、それ以外は客も含め全て黒人。彼らは見るからに若い。雰囲気は明らかに悪い。僕は上着も脱がず酒も飲まず、気が張ったままトイレに行ったりタバコを吸ったり周りを眺めながらただ座っていた。友人はというと、酒を飲みながら黒人のダンサーにチップを払って席へ呼んだりラップダンスを踊らせていた。
そうやって1時間か1時間半ぐらい過ごしていたら、店に入ってきた人が
「そろそろ帰るか?」
と話しかけてきた。タクシーのドライバーだった。彼は呼ぶ前に来た。そのままタクシーでホテルまで帰る最中も友人はひどくご機嫌だった。タクシーに乗っていたのはトータルで1時間半か2時間ぐらいだっただろうか。請求されたタクシー代は$40ばかし。たった$40だ。トロントで30分もタクシーに乗っていれば$40は行くだろう。めちゃくちゃ安い。日本でも30分乗っていたら3000円ぐらいか。どちらにしても異常に安かった。
デトロイトで安いのは家だけではない。レストランからホテルから、何もかもが安い。そしてタクシーもそうだった。友人はお礼を込めてチップを多めに支払っていた。いいドライバーに当たった。ドライバーはトロントに来たことがあるらしいが、大量コカインを所持していて捕まったらしい。いい人と言ってもそんな人だ。
その後ホテルに戻ってから友人は言っていた。
「デトロイトの郊外にあるストリップクラブなんてこんな機会でもなければ絶対に行けないよ。悪の巣窟みたいなもんだ。多分あの客の中で2人ぐらいは人殺しているよ。」
これは悪い冗談みたいだが、おそらく実際にそうだ。何事も無く終わったが、デトロイトへ行く際は充分に注意してください。デトロイトの人の英語は訛りが激しくて、僕は全然聞き取れなかった。少なくとも誰か一人ぐらいは英語が話せる人と一緒の方がいいです。
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