20日目 旅の終わり

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前回の続き

アテネから日本まで帰る途中のことをあまり覚えていない。飛行機の記録をたどれば、どうやら午後の便に乗ったようだ。朝起きて、朝食を食べ、チェックアウトをして電車で空港へ向かう。帰りも行きと同じモスクワ経由。トランジットはわずか1時間半。到着したモスクワ(僕らはモスコーモスコーと連呼していた)のターミナルは新しくきれいで、広々としていた。行きと違う。搭乗するターミナルへ向かう、こっちは行きと同じで通路が狭く、小汚くベンチも少ない。店も少ない。成田行きの搭乗ゲート前は日本人ばかりだ。これだけの日本人を見たのは20日ぶり、モスクワ行きの飛行機に乗って以来となる。旅行中もずっとチェコ好きさんと日本語で話していたり、日本語の本も読んでいた。しかしその場にいる人たちが日本語を話しているというのは久しぶりで、聞こうとしなくても耳に入る言葉が理解できるというのは、安心するようで、わずらわしいようで。

 

モスクワから成田へは10時間以上かかるが、帰りの飛行機はあまり長く感じなかった。寝たり、本を読んだり食事をしたり、そうやっているうちに着いた。空港で荷物を待っていると、名前を呼ばれた。

「今日は荷物が着きません。東京都内だと明日、関東ならあさっての午前、それ以外はあさっての夕方以降になります。」

これは初めてだ。ただの遅延だからロストバゲージにはならないのか、とにかく関東にまだ2日ほど滞在する予定だったから、送り先は宿泊する知人の住所を書いた。実家にしてもよかったんだけど、それまでの着替えがない。

外国で入国やらなにやらの書類を書く際、職業を書く欄にいつも「学生」と書いていた。他に書く内容が思いつかなくて、無職と書いて怪しまれたら面倒だ。そもそも無職という英語を知らない。でも学生はそろそろやめようと思った。なんて書こうか。こんなところでは調子に乗ってもいいかもしれない。WriterでもPhotographerでも自称できる。Artist、一般的に英語でArtistというと、音楽家を指すことが多いそうな。違うな、そもそもArtistじゃない。「それではあなたのアートを見せてください」なんて言われてしまったら見せるものがない。「具体的には?」なんて聞かれたら答えようがない。画家ならPainterとか別の言い方があるだろうし、作家でも彫刻家でもそうだ。やはり書きようがない。学生しかないのか。「学生証は?」「置いてきた」monk、どう見ても違う。やはり嘘をつくのは難しい。

チェコ好きさんとは空港で別れたが、またすぐ飲みに行く約束をしていた。旅行の感想なんていうものはまだ出てこない。終わった直後で落とし込めていない。人と会った時、旅行について何か聞かれたら答えることを考える。

今回の持ちネタとしてはやはり、在り来りではあるがイスラエル入国で別室送りになったこと、 

エルサレムで猛スピードのパトカーを10台ぐらい連続でを見たこと、そのあたりがとっつきやすい。

自分たちの体験としては、マラケシュで迷ったことが一番思い出深かった。

行ってよかった場所は西壁になる。

旅行を終えて再びチェコ好きさんと会い、話す。

「終わってしまったねえ」

「終わってしまったよ」

終わってしまったんだ。この旅行は終わってしまった。わずか20日間の旅行は、移動、睡眠不足、移動、待機、船酔い、寒い、暑い、睡眠、移動、それも徒歩で移動ばかりの過酷で疲れる旅行だった。情景が、人の姿が、声が、街の音が、日差しが、食べ物が、今まで見たことのなかったものが体に染み込む、そういう旅行だった。そしてこうやって無事日本に辿り着き、僕らの旅行は終わった。

この後僕は一週間ほどしてからオーストラリアに戻ることになっている。オーストラリアで何日か、何ヶ月か過ごし、また日本に帰ってくるだろう。それからもまたそのうち、何処かへ旅行するだろう。それはもう、今回の旅行とは全く違ったものとなる。今回の旅行は、もう永久に失われた過去となってしまった。さようなら。

最後に、こんな大変になってしまった旅行に同行しながら何も文句言わずについてきてくれたチェコ好きさんには申し訳ない気持ちと同時に感謝でいっぱいです。改善点などもまとめ、詳しくはここに書きました。

僕について書かれた内容はこちら