「しょぼい起業で生きていく」は実現できるのか?書評・感想

「しょぼい起業」提唱者のえらいてんちょう(えらてん:@eraitencho ‏)さん著、「しょぼい起業で生きていく」を読んだ。まず、おもしろかった。phaさんの「ニートの歩き方」、伊藤洋志さんの「ナリワイをつくる」や大原扁理さんの「年収90万円で東京ハッピーライフ」「20代で隠居」、鶴見済さんの「0円で生きる」の派生型、延長上と言える。この手のジャンルは何ていうのだろう?Bライフ系とでも言えばいいのか。特徴としては競争社会に疲れた人たちが、世間の主流である資本主義に完全に寄り添う形ではなく、少し距離をおいて、経済的な成功以外の喜びを第一に楽しく生きていく道を探そう、みたいなそういう本にあたる。

僕はこの手の夢が広がる本が好きで「自分にもできるんじゃないか!?」なんて期待を胸にいだき、ついつい買って読んでしまう。「ニートの歩き方」は疲れ切った現代に向けた、新しい価値観の提示を主としていた。そして特にネットを主戦場とされているだけあって、ネットを介した流通や他者との関わりのヒントを示している。「ナリワイをつくる」は逆に、ネットではなく地域コミュニティを介した人との関わりと、具体的な手作業に根ざした仕事を通した、競争・効率主義的ではない生活様式を提唱していた。大原扁理さんの著書はまだ読めていない。鶴見済さんの「0円で生きる」は東京においてお金をかけずやりくりするための具体的なマニュアル本だったように思う。

「しょぼい起業で生きていく」が提示する生き方は、これまでともまた少し違う。「しょぼい起業」と言いながらも軌道に乗った著者は、全国チェーン展開のようなことまでしている。これまでの「飽くまで貧しく楽しく暮らす」系からは一歩抜き出た感じもある。「しょぼい起業」とは簡単に言えば自営業だ。それもお店を開くというわかりやすい自営業。

「しょぼい起業」= 自営業?

自営業を始める、自分の店を持つと聞いてまず最初に思い浮かぶのは、以下のような疑問、そして不安だ。

  • 借金しないといけないんじゃないの?リスクがでかすぎる
  • コネや流通ルート、ノウハウを極めないと生き残れない?
  • そもそも客くんの?
  • そもそも何の業種やればいいの?専門性がない

こういうわかりやすい疑問、もとい不安に対して、えらてんさんはまず片っ端から答えている。このあたりがこの本の構成として爽快なところだ。簡単にまとめれば、

  • 借金しないといけないんじゃないの?リスクがでかすぎる
    → 安い店舗を借りて住め。50万あればできる。クラウドファンディングもある
  • コネや流通ルート、ノウハウを極めないと生き残れない?
    → 地域住民の囲い込みから始めろ。ノウハウは俺が提示する
  • そもそも客くんの?
    → 金をかけずに客を集めろ。twitterやyoutubeがある
  • そもそも何の業種やればいいの?
    → リサイクルショップ、飲食などは原価がかかりにくい

本当にざっくりいうとこんな感じだが、このあたりは超絶端折っているため「こんなこと書いていない」と言われてもしょうがない。ミスリードはあると思う。でもまあ著者えらてんさんが主張したいのは章ごとのタイトルに明確に現れているから、僕のまとめは無視して副題だけでも見てみよう。それだけでこの本を買いたくなるか、興味をなくすかはっきり別れる。

「しょぼい起業」の読みたくなる副題

副題を読めばこの本に書かれている内容が十分想像できる。本屋でここを立ち読みするだけでも検討には十分だ。ある人は購買意欲をそそられ、ある人は手に取るのをやめるだろう。

第1章 もう、嫌な仕事をするのはやめよう

  • 組織で働くのが無理なら起業しよう
  • つらいことをやる必要はありません
  • 「とりあえずサラリーマン」という価値観の終焉
  • 「サラリーマン生活がしんどい=落伍者」ではない
  • アルバイトだって、しんどい人はたくさんいる
  • 日本にいるかぎり飢え死にはしない
  • お金を使わなくても、楽しいことはたくさんある
  • 逃げても「やっていく」ためのヒント

第1章は主に著者の経験を踏まえたサラリーマン以外の生き方を提示する内容。この手の本には避けて通れない、定番の入りである。どんな人に「しょぼい起業」を勧めたいか、「しょぼい起業」という生き方について。

第2章「しょぼい起業」をはじめてみよう

  • 「事業計画」も「銀行での資金調達」もいりません
  • 日常生活で必要なものを作り、余ったぶんを売る
  • 最初から一攫千金を狙ってはいけない
  • 生きてるだけで、絶対にかかるコストが利益になる
  • 「しょぼい起業」は不況に強く、つぶれにくい
  • 儲けた金で生活しようと考えない
  • 持っている資産を使って稼ぐ

「しょぼい起業」とはなんなのか。カフェや飲食店、雑貨屋といった店を持つ一般的な自営業との根本的な違いは何か。それを次の3章も使って、噛み砕き解説している。決定的な違いは「専門性を持たない」ことと「リスクを取らない」こと。そんな自営業あり得るのか?って思った。この本を読むまでは。

第3章「しょぼい店舗」を開いてみよう

  • 「店を開くには大金がかかる」は大ウソ
  • 家じゃなくて、「店」に住む
  • とりあえず毎日店を開けておけば、お金になる
  • 事業計画は作っても守るな
  • 準備資金がゼロでも大丈夫
  • ゼロから「投資してもらえる人」になる方法
  • 下手な鉄砲撃ちまくろう!
  • 実店舗の経営者は、社会的に強い
  • 資源を眠らせない店が成功する

第3章から具体的な経営ノウハウの初歩となってくる。店舗を始めるところから、軌道に乗せるまでにやること、やらないことをまとめたような内容。「しょぼい店舗」は専門的な知識や技術、独自の商品ではなく、ちょっとできること、手に入るものを何でも商売にしてしまう。発想としては昔町内にあった個人商店、何でも屋に近い。この本ではそれを「生活の資本化」(コストの資本化)と読んでいる。

第4章「協力者」を集めよう

  • 従業員は雇わなくていい
  • 現金だけが儲けではない
  • 協力してくれる人が自然と集まる「正しいやりがい搾取」
  • 「友好関係」が、お金以外の対価を生む
  • 「ノンストレス」な世界を作れば、人は動く
  • 「なんとなく活気がある店」に見せる

この本で「やっぱ無理かも」と一番思わせられるのはこの章。えらてんさんは「しょぼい起業」が「誰にでもできる」とは言っておらず、飽くまで「向き不向きがある」と言っている。その向き不向きが一番大きく現れるのはこの第4章、人付き合いの章ではないだろうか。というか、この章あたりから向き不向きが顕著になってくる。第1章で提示されていた「嫌な仕事」がこの人付き合いにあたる人は、ここで完全に脱落すると言っていい。

第5章 しょぼい店舗を流行らせよう

  • 広告宣伝費なんて、一切必要ない
  • 「無料の品」で店の前まで来てもらう
  • 必要とされる店は、お客さんが勝手に宣伝してくれる
  • 店舗のSNSを開設するのではなく、SNSを店舗にしよう
  • いまのオススメはYouTube
  • YouTuberとテレビタレントの区別はなくなっている
  • 誰も来ない店には誰も来ない
  • お店の状況は「大本営発表」が基本
  • 仕事をしている人のところに、仕事は来る
  • 「なんとなく楽しそう感」が人を集める
  • 「価値の言い換え」でイメージアップ戦略

この章に関してはもう完全にマーケティングである。むずいぞこれ。TwitterやYoutuber、ブログに人を集めるのが難しいのは半ば常識になっており、できない人は一生できない。そしてできる人はいとも簡単にやってのけるから「なんでこれができないのか?」と頭をひねる。3章まで心地よく読んでいた人も、この4章5章で現実を突きつけられ、「やっぱ無理でしょ」と思う挫折者が出てくるのではないだろうか。ここは第4章よりもさらに「やりたい、やりたくない」ではなく「結果が出る、出ない」が明確に分かれるところ。

第6章「しょぼい起業」実例集

  • 「しょぼい起業」を人に勧めようと思ったキッカケ
  • 「しょぼい起業」メソッドで起業したい若者登場
  • 100万円の出資が瞬時に決定
  • 「しょぼい喫茶店」で働きたい人が登場
  • 開店ストーリーに共感したファンが押し寄せる
  • 「しょぼくても生きていいこと、生きていけることを示したい」
  • 死なずに生きていて、よかった

成功例が挙げられている。全てが全て、必ずしも「えらてんメソッド」に完璧に沿った事例ではなく、開業者が自分に合わせたアレンジが加わっていることがポイントだろう。ただこの章の実例は、実例としての詳細よりもエモーショナルなサクセスストーリーを提示することに重きをおいているフシがあるため、資料として参考になるかどうかは微妙。話はおもしろい。

あとはおまけとしてphaさん借金玉さんとの対談が載せられている。大体の内容は、彼ら同士通じるところと違うところの照らし合わせ。phaさんはこの「しょぼい起業」自分にはできないと言い切っており、それはそれで参考になる意見だと思う。というか、よくそれ本に載せたな。

「しょぼい起業」は実現可能か?

できる人はできるだろう。僕ができるかどうか、という話。

この本を3章ぐらいまでよんでいるうちは「めっちゃおもしろそう」「やりたい」と思ったが、4章5章で「やりたくねー」と思った。僕自身も向き不向き、現実を突きつけられた質だ。この「やりたくなさ」を乗り越えるかどうかが、実際にやるかどうかを大きく左右するところだろう。中には1章2章にあるような貧乏生活が惨めで本を閉じるという人もいると思う。

「嫌な仕事をやらない」と掲げている「しょぼい起業」において、「やりたくなさ」とどう向き合うか。都合のいいことばかり望んでいても結果はついてこないから、やりたくないことを我慢してやるか。それとも、別ルートを探すか。えらてんメソッドは一例だろうし、もしかしたらその中にある「やりたくないこと」を回避するルートが存在するかもしれない。ただそれはえらてんさんが提示してくれないため、自分で探して見つけるしかない。

それでも、ひとまずやってみたいと思わせられた。一番難しいのは店舗にする物件を見つけることかもしれない。どういう物件を選ぶべきか、みたいなこともこの本には書かれている。多少賃料が高くても人通りの多い…とかとは真逆だ。次に、売るものの仕入先を見つけることだろう。一から営業していかなければいけない。最後に、客寄せだろうか。いかにも大変そうだなー。やってないからそう思うのか、やってみないとわからないことかもしれない。

僕の「しょぼい起業」案

自分だったら何をやってみたいだろう。まず最初に思ったのが古本を扱う店。これは本好きなら誰もが夢見るのではないだろうか。資格も古物商だけでいい。ただ一般的に「実店舗の古書店でやっていくのは無理」と言われており、古書だけではとても成り立たない。次に思ったのはAirBnBを利用して部屋を貸す形式。これは民泊の法律ができてかなりやりやすくなった。地域と物件次第。お金はちょっとかかる。もう一つ思ったのはコーヒーを出す店。その名も「友達んちで出てくるコーヒー」。市販の器材でコーヒーを淹れるだけ。ただ豆に関しては「ナリワイをつくる」にあったように、焙煎からやりたいと思う。あとは何だろ、写真を撮るのが趣味だから撮った写真を額に入れて売るとか、もしくはその場で撮った写真を額に入れて売るとか。売り場を提供してもいい。ざっと思いつくのはそんな感じで、それが実際に商売になるかどうかはわからないが、そういうことを全部やっている店があったらなんかおもしろそうと思うし、入ってみたいと思う。少なくとも僕は。

しょぼい起業で生きていく

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