「イスラム飲酒紀行」はヤバイ。書評・感想 

ドアを叩くと、ランニングシャツに腰巻という、これまた普通のベンガルスタイルのマルマの男性が現れた。この家の主人らしい。やはり無言のまま、私たちを中に招き入れた。どうにも「非合法」の雰囲気だ。 p303

タイトルからして「酒が禁止されているイスラム圏でパフォーマンスとして無理矢理酒を飲み歩く武勇伝」と思いがちだが、そういうダサヤンキー旅行記ではない。イスラム圏でも、実は酒が飲まれている。ムスリムが飲んでいるのだ。留学などで北米やヨーロッパに出てきたムスリムが、イスラム教で禁止されている酒に触れ、味を覚える、というのはよくある話だけど、まさか本国においても酒が飲まれていたとは!戒律ってなんなの!

ムスリムの本音がヤバイ!

僕たちには本音と建前がある。エロは公序良俗に反すると言いながらみんなセックスする。建前上禁酒のイスラム教徒も、一部は飲む。イラン人はイスラム民主主義もホメイニも批判する。ただイスラム圏においては、さすがに公然と酒を呑むことはできない。違法の国が多いため、隠れて飲まれている。著者高野さんはそんなイスラム圏に点在する隠れ飲みスポットを探し当て、訪ね歩き、現地の隠れ酒飲みたちと一緒に飲む。イスラム飲酒紀行、これは衝撃の本だ。

それは異様な場所だった。上の三分の二が鉄格子になっている五十センチ四方の小さな窓口に、髭面に白い長衣の男たちが殺到している。 p51

酒を求めすぎる高野さんがヤバイ!

なぜこんな本が書かれたのか。高野さんは重度のアルコール中毒、というわけではないが、毎日酒を飲まないとやっていけない酒飲みである。飛行機内や空港でも酒を飲み、飲まない日は年に1日あるかないか。この本を読んでいてると高野さんの酒を飲むことに対する情熱、というか禁断症状がヤバイとわかる。必死過ぎ。

「くそー、なんでビールがないんだよ!」。私はベッドの上でごろごろ寝返りをうった。 p60

イスラム圏を頻繁に取材をしていた高野さんは酒を飲めないことに我慢できなくなり、酒を飲んでいそうな現地人の雰囲気にピンときて後をついていく。

売られている場所がヤバイ!

パキスタンのラワルピンディー。酒は一般的に禁止されているが、医者の許可証があれば合法的に飲めるらしい。医療用大麻みたいなことか!売っている場所は路地奥。他にもアフガニスタンの中華系カラオケ屋、チュニジアの路上バー、イランの個人宅など。それ以外にもイスラム圏だが禁酒の国ではないマレーシアにおけるポルトガル系のバー、イスタンブールのネヴィザーデという飲み屋街など、この本にはそういう場所の飲酒体験談が集められている。

だが本日の主役は実はチョウザメではなかった。マーヒーセフィードの卵を発酵させたアシュバルである。発酵からくる旨味、たらこのような粒の弾ける食感、天然粗塩のほんのり甘みのあるしょっぱさに「おお!」と唸ってしまった。なるほど、再考の酒の肴だ。 p166

どこでも誰とでも酒が飲みたいという酒好きのための海外本。

何が一番ヤバイか

この本がヤバイと思う一番の理由は、ムスリムの本音を掲載してしまっているところだ。現地人の写真に目線が入れられていることは、高野さんの本では異例なことであり、この本は間違いなくアラビア語やペルシャ語で発行できない。それどころかこの本の存在がイスラム教の組織にバレようものなら発禁にされてもおかしくない。そんなヤバイ本です。

イスラム飲酒紀行 (講談社文庫)

イスラム飲酒紀行 (講談社文庫)

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