猫が亡くなった

13歳だったので、早くも遅くもない。近年ではやや早い方になるのか。病気だった。リンパ腫が腎臓を覆っていた。4ヶ月ほどの闘病の記録。

5月末頃から急に餌を食べなくなり、水も飲まなくなった。水の前で何度も立ち往生する姿を見かけた。そのまま顔が衰えていき、これはおかしいぞとなって、かかりつけの病院に連れて行った。そのときは脱水と栄養不足に陥っていた。点滴をして、血液検査をやってもらったり、レントゲンを撮ったり、エコーを見たりした。病気はなかなか判断がつかなかった。

栄養不足だけど自分で食べないため、やわらかい食事を無理矢理あたえることになった。注射器の先がないシリンジに、液体と固形の中間の回復食を詰め、食事を与える日々が続いた。最初はやり方がわからず、上手くいかなかった。猫もなかなか抵抗した。一時は全く受け付けなくなり、粉のタンパク質を水に溶いて与えたりもしたが、それも少量しか飲み込まなかった。

猫は水も飲まなかったため、最初のうちは毎日点滴に通った。そのうち自宅でも点滴するようになった。奥さんが飼い始めた猫で、針を刺して何かあったらと思うと僕はできなくて、奥さんが点滴をやった。点滴を続けていくうちに、水が背中に溜まるようになった。吸収されていない。アルブミン不足によるむくみだった。

腎臓に影があったため、かかりつけ医の紹介でペットの総合病院で検査してもらうことになった。ここでもレントゲンを撮り、外注で検査をしてもらったり、顕微鏡で病原を見てもらったりした。検査結果が出るまで一週間かかるけれど、リンパ腫かもしくはFIP(猫伝染性腹膜炎)が疑われた。

むくみを取るためにも食事をしっかり与える必要があるため、強制給餌のやりかたを教わった。ビデオに撮って、自宅で真似をした。猫も最初のうちは苦しそうだったけれど、繰り返すうちにだんだん慣れていった。抵抗しなくなったと言うより、強制給餌がそこまで苦痛じゃなくなったのだと思う。

検査の結果、リンパ腫だった。もう助からないことがわかった。かかりつけ医に戻り、これからどうしていくか話を聞いた。短くて一週間、長くて半年のがん治療の予定をもらった。何種類かの抗がん剤を順番に投与していく。治りはしないため、病気による苦痛を和らげるのが目的だった。これからは週に一回病院に通い、抗がん剤のため一日もしくは半日の入院を繰り返すことになった。

この頃の猫は、涙を貯めて鼻水も多く、鼻の呼吸がくるしくなってきた。奥さんは処方された目薬を差したり、目や鼻の周りの膿や塊を拭いて掃除していた。僕も頻繁に涙の跡を拭い、固まった鼻を掃除したり手伝った。病院からネブライザーも借りて、吸入した。一番忙しいときは、目薬、点鼻薬、ネブライザー、点滴、強制給餌を間を空けて一日中、順番にやっていた。文字通り付きっきりの看病だった。

抗がん剤をいくつか試すうちに効くものがあり、最初の予定を変更して効くものを続けて投与していく方針に変わった。鼻で全く呼吸ができなくなり寝られていなかった猫も、抗がん剤が効き始めて鼻で呼吸ができるようになった。呼吸ができない状態が一番苦しそうだったため、このときは気持ちも少し落ち着いた。

抗がん剤が効いてくると、水を飲み始めた。点滴が必要なくなり、鼻が落ち着くとネブライザーも点鼻薬もやめた。がんは目に転移していたため、ステロイドの点眼は続けた。エサかおやつを少しずつ食べるようになり、強制給餌の量も減らしていった。体調を崩してから2ヶ月ほどはドライフードを全く食べなかったが、ドライフードも少し食べるようにまでなった。

抗がん剤を続けた。3週間に一回しか投与できない種類のものが一番効果が見られたため、間の2週は検査と診察、3週目に抗がん剤という予定になった。3週目が近くなると、猫はだんだん衰えていき、そのときの体調次第で抗がん剤治療が続けられるかどうか、という状態だった。

先週、猫はトイレの近くで尿を漏らすようになった。間に合わなかったのか、うまく座れなかったのか、床を掃除して様子を見ていたが、その日の夜にも同じことがあった。次の日も続いた。病院に連れて行き検査をすると、尿があまり出ていないため、尿毒が回っているという結果だった。腎臓が機能していない。リンパ腫になってからは尿がいつもより多く出ていたのに、確かにここ2,3日が極端に少なかった。そのため体重も増えており、体にむくみも出ていた。この日は3週目の抗がん剤の日だったが、見送りになった。

とにかくいつも通りに尿を出して、腎臓の数値を戻さないことには抗がん剤ができないため、利尿剤を打ってもらった。トイレで小便ができなくなったのと、尿の量を都度確認するために、おむつをはかせることにした。次の日、尿は少し増えた。このまま尿が出て体重も戻れば、抗がん剤治療を続けられるかもしれない。動物病院の先生とは毎日連絡をとり、再び利尿剤を打ってもらって様子を見た。尿は徐々にいつも通りになり、体重も戻ってきた。

ただ猫はどんどん動けなくなり、転移している片目も悪化してきた。前の抗がん剤から4週空いている。鼻の呼吸も再び苦しくなり、口で息をするようになった。おやつも食べなくなり、回復食の強制給餌だけを続けていた。自分で立つことさえできなくなったが、食事は受け付け、水も飲んでいた。

動物病院が休みの日。翌日の朝に尿が出て体重が戻って、健康状態が改善していれば抗がん剤治療を再開しようという日に、猫は息を引き取った。たまたま病院が休みの日だったが、そのまま次の朝を迎えていたとしても、抗がん剤はできなかったかもしれない。年中無休の病院に行って、死亡確認をしてもらい、詰め物などを処置してもらった。初めて行った病院の先生から「毛並みもよく栄養状態も良さそうで、よほど手厚く看病してもらってたんですね」と言われた。

一晩過ごし、昨日業者に頼んで火葬してもらった。人間の葬式のように、お経と合掌があり、骨壷に順番に骨を入れて、持ち帰った。今はその骨が自宅にある。もう少ししたら、寺に埋葬してもらう。

闘病時の日記はこのあたり