中年の危機はこれから訪れるのか?

もう40代だけど、中年の危機(ミッドライフ・クライシス)という言葉を全然知らなかった。去年読んだ村上春樹の小説「街とその不確かな壁」に出てきて、なんだろと思って調べて初めて知った。いや、正直まだいまいちわかっていない。

おそらく、この「中年の危機」がまだ自分に訪れていないから実感が持てないのだろう。中年になったからといって、全員にこの危機なるものが訪れるもんでもないだろうし、周りの同年代からも聞いたことがなかったから、いまだによくわからないままでいる。

最近は「パーティーが終わって、中年が始まる」でも、中年の危機らしいことについて触れられていた。別のブログ記事でも触れられていたから「なんとなくそういうもんだろう」ぐらいの認識は持っている。

多分、人生の折り返し点が過ぎて、この先何があるのか(ないのか)見通しがつき、未来への希望がなくなった。その上体力も知力も記憶力も下り坂で、今まで出来ていたことが徐々にできなくなり、気力まで落ち込んでいくような状態?かな?

それで危機というのはなんなのか。一応ウィキペディアに載っていたから引用してみよう。

中年期の心理的危機
中年期の心理的葛藤は、以下のような感情や行動となって表れる。
・出社拒否などの職場不適応症、うつ病、アルコール依存症といった臨床的な問題
・空の巣症候群
・自己の限界の自覚
・達成する事の出来なかった物事への深い失望や後悔
・より成功した同輩・同僚に対する屈辱感・劣等感
・自分はまだ若いと感じたい、また若さを取り戻したいという思い
・一人になりたい、もしくは気心の知れた者以外とは付き合いたくないという欲求
・性的に活発になろうとする、もしくは逆に全く不活発になる
・自身の経済的状況や社会的ステータス、健康状態に対する憂鬱、不満や怒り
・人生の前段階で犯した過ちを正す、または取り戻そうとする

中年の危機 - Wikipedia

このへんはやはり、サラリーマンの事例なのかな。僕はサラリーマンではないし、やっぱり中年を契機にこれに該当するようなのは一つもない。サラリーマン以外の中年の危機に該当するようなパターンってどんなんだろう?

僕の場合、強いて言えば2010年頃から旅行を生き甲斐にしてきたようなところがあった。行きたいところはほとんど行って、もうかつてのような願望もなくなったところで2019年に結婚した。旅行を中心としてきた10年ばかりの生活は、そこで完全に終わった。

それからは夫婦生活が人生の中心になった。かつてやってきたような危険度が高いことを避けるようになり、タバコもやめ、健康に気を遣うようになり、目標は長生きになった。生活の上で、自分の世界が拡張されるような発見や冒険のスリルみたいなのはなくなった。でもそれは、そのままの生活を続けていたところで、いずれなくなっていただろう。知っていることが増えて新鮮味が失われ、気分が盛り上がることも減っていた。生活が変わったことについて、寂しい気持ちがないわけではない。けれど喪失感というほどでもなく、後悔もない。むしろありえないぐらいラッキーなフェーズ移行ができて、感謝の気持ちが強い。

今自分が抱えている月並みな不安といえば、夫婦の健康状態、親の健康状態が一番大きい。あとは不安というほどではないにしても、夫婦関係をうまくやっていくこと、本・マンガ・アニメ・映画・ドラマ・音楽といった娯楽を楽しむ気力が衰えていること、仕事とかお金、そういう特別ではないことを薄っすらと心配している。肝臓の数値は全く良くならないし、親は高齢で父親は死んで母親が一人で暮らしている。そこに中年ならではの深刻さはある。今この状態からさらに、40代のどこかでいわゆる「中年の危機」みたいなのがもっと顕在化したりするのだろうか。

ライムスター宇多丸さんが言うところの、30歳前後の「第二思春期」は、僕は明確に迎えていた。30歳前後は、言うなればキャリアなどをギリギリやり直せるタイミングで、この機に転職したり結婚したりする人も多い。僕が会社員を辞めたのがまさに30歳のときだった。仕事が嫌すぎて、定年までこの生活を続けるのは無理だと判断した。このまま死ぬよりは、人生に悔いが残らない選択をしようと決めて踏み出した。

その前だと20歳前後、僕は21歳で大学を卒業したけど、社会に出る不安が大きく漠然とあった。勉強ができるわけでも好きなわけでもなかったから、学生の時間を延ばしたいとも思わなかった。ただこう、放り出される感覚というか、何の準備もできていなかった。実際に何の準備もしておらず、やりたいこととか何もなかったから、その場しのぎでなりふり構わぬ就職活動をして、藁をもすがる感じで採用された会社に飛び込んだ。ノルマンディー上陸作戦みたいに。

10代の頃は、それこそ勉強が重くのしかかった。学校は苦痛だった。今思ってもやっぱり勉強は嫌で、学校も向いていない。人間関係とかはどうでもよかったから、不登校になったりはしなかった。ただ自分には取り柄がなく、何も出来ないことがわかっていた。本当は勉強を頑張っていい大学に行ったりしないといけないんだろうなーめんどくさいなー嫌だなーというか無理だわーと思い続けた小中高だった。思い続けただけで結局やらなかった。

最近一番つらかったのは父親が亡くなったことだけど、そういう近しい人の死に向き合うことってこれまで全然なくて、今後必然的にどんどん増えていくことを思うと、それはきつい。ただそれでもやっぱり、こうやって振り返ってみても10代の頃が一番嫌だったかな。僕は人生に夢や希望なんて持ったことなかったし、若いうちに死ぬと思っていた。中年の危機よりも、きっと10代の頃のほうがきつい。ヤケクソのように好き勝手やってた30代が、なんだかんだで一番楽しかった。先行きの不安は変わらずあったけど、今この時を目一杯楽しんでいたが30代だった。