15日目 ベツレヘムへ

前回の続き

エルサレムからベツレヘムまでは非常に近く、バスで片道45分ほどだったように思う。前回に載せたようなニュースもあり、ベツレヘム行きは結構ギリギリまで迷っていた。行くべきかやめるべきか、それも結局は現地に行ってみないとわからず、評判によれば全然問題ないということだったから行ってみることにした。厳しそうであれば帰ってきたらいい。エルサレムからベツレヘムまではダマスカスゲート近くのバスターミナルからバスが出ている。アラブバスというバスの231番に乗り、終点で降りるとベツレヘムの教会へと続く道が近い。片道6.8シェケル。バスはこの終点から折り返してエルサレムへ戻るため、エルサレムへ帰る時は降りた場所と同じ所から乗ることになる。バスや路線の検索などこのあたりではGoogleマップのルート検索が使える。僕はWikitravelを参考にした。

僕らがベツレヘムへ向かうのは、パレスチナに足を踏み入れたいとか分離壁を見ておきたいとかキリスト生誕の地を見たいとかそういう理由もあったけれど、それ以外にも目的があった。僕は全然知らなかったけれど、なにやらバンクシーという人の絵がここベツレヘムには存在するらしい。バンクシーとはロンドンの路上アーティストらしく、スプレーアートのような形で壁などに落書きをしている。僕は本当に全然知らなかったけれど、落書きされた壁がオークションで落札されたり2013年にはニューヨークで1ヶ月かけて街中に展示していたのが話題になったり(ドキュメンタリー映画となり日本では今年公開)、世界的に有名みたいだ。それがまた、なんでこんなベツレヘムなんて場所でグラフィティなんだ。バンクシー、ベツレヘムで検索するとその旅行記が山のように出てくる。そんなことやっている人がいることも知らなかった。

Banksy(公式サイト)

バンクシー - Wikipedia

映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』公式サイト

さて、ここベツレヘムでバンクシーが描いたグラフィティは4点あるらしい。初めは現地のタクシーで回る予定だった。交渉すれば60シェケル(約1,800円)とか100シェケル(約3,000円)とかで回ってくれるということだった。色々調べていると、バンクシー作のグラフィティは4つしかないのにかなり時間をかけて関係ないグラフィティまで色々紹介されるとか、めんどくさい評判がネットに書かれていた。もう少し調べると、グラフィティの具体的な位置が紹介されていた。これ、歩いて行けんじゃん。歩いて行く事にした。特に最初の二つ、少女にボディチェックされる兵隊と武装した鳩の絵はバスを降りたところから歩いてすぐの場所にあった。

バスを降りる場所

まず、エルサレムからのバスを降りた瞬間にタクシー運転手が群がってくる。そこでも何もわかっていないようなアラブ人のおっさんが「バンクシーバンクシー」と言うぐらいだからかなり有名になっているようだ。ドライバーをさらりと抜けてバスの来た道を少し戻り、歩く。何ブロックか歩いていると、おっさんに「こっちだよ」と声をかけられた。一つ目、兵士の身体検査をする少女の絵を取り囲むようにライトアップ、そしてグッズショップができていた。ショップと言っても絵の前タタミ一畳分ぐらいのスペースしかない。

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「この壁はうちの壁の裏なんだよ」

嬉しそうな店主。グッズ自体はどこかで外注しているだろう、それよりも壁の絵自体にかなりの値が付いているはずだ。グッズショップはもう一つあるため、先に二つ目のグラフィティを探しに行った。一つ目のすぐ近くにあった。武装した鳩。

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こちらはそのまま放置されている。この扱いの差はなんだろう。

このあたりで分離壁の近くを通る。分離壁はイスラエル側が領土拡張のために壁を建設していると言われている。ただ実際のところ、壁はどちらかというとガザの方が有名だ。あっちでは壁の下に穴を掘って流通しているトンネル経済というのがあった。分離壁近くのバンクシーショップはちょうど昼休みで入れなかったため、一つ目のグラフィティを取り囲んでいたショップで軽いみやげ物を買った。チェコ好きさんは「ギフト」と言われパレスチナ国旗の腕輪をもらっていた。

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ここから一度バス停まで戻り、イエス聖誕の教会へと向かう。このベツレヘムは全くアラブ人しかいない。旅行者の観光客を除けば住人全てがアラブ人であり、バスの乗客もアラブ人が多かった。しかしお金はイスラエルと同じシェケルが使用できる。エルサレムにはユダヤ人もアラブ人もいる、パレスチナ側にユダヤ人は全くいない。この違いははっきりとしていた。なんと歪な状況だろう。聖誕教会まで歩くのは少し遠い。道にも人がたくさんあふれており、車も多く通る。おまけに坂道を登る。真っ直ぐ進むと車が通れない細い道に入り、そのまま更にずっと進む。このあたりはもう既に教会のような建物が見受けられる。僕らは一度道を間違え、右側の市場の方へ行ってしまったがそちらには外国人が全くおらず現地人ばかりだったため引き返して教会へと続く道を歩いた。細い道を抜けると広場のような駐車場のようなところに出る。その突き当りに聖誕教会はあった。教会は工事中だ。

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ベツレヘムの様子

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教会の勝手口

イエス聖誕の教会、というよりはその地に赴きたかった。おそらくここに当時の名残はないだろう。教会はゴージャスなものではなく、観光で来たり真剣に巡礼に来ている人たちが代わる代わる出入りしている。ほとんどが西洋人だ。わずかに聞いたことがあるようなポーランド語も聞こえた。第二次インティファーダの時期、2002年にはパレスチナゲリラがこの教会に立てこもり、周りをイスラエル軍が包囲したとWikipediaに書かれている。

バンクシーの続きは聖誕教会の先にある。ここからはまた結構歩く。教会のある丘を降り、アララトホテルというホテルが見えてくるからそこまで歩くと3つ目の絵が見つかる。ハートを落とす天使。

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そして最後に残ったのが花束を投げる男。これがまた遠い。遠い上に地図ではどこをどう進めばいいのかよくわからない。途中にあった店でケバブを食べ、さらに奥へと進む。アラブ圏はどこもかしこも車が多く、ところどころ歩道がなくて危ない。排ガスもすごい。このあたりは他のアラブ圏にも共通する。

ネットに載っていた情報によると、車屋の向かい側と書かれていた。車屋はたくさんある。ちょうどプジョーとシトロエンの反対側にガソリンスタンドがあり、そこに座っているおっさんに声をかけられた。

「絵を探しているのか?向こうだ」

案内してくれる。4つ目のバンクシーの絵は、ボロボロになったガソリンスタンドの洗車場かなにかの側面にあった。でかい。

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遠くから全体図を撮った

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バンクシーを一通り見終え、バス停まで歩く。道のりが長く、だいたい50分ぐらいかかる。そのほとんどが上り坂。それまでに長く長く歩いたことも踏まえ、かなり疲れていた。聖誕教会まで来ると休憩し、スターバックスの偽物に入った。席はオープンテラスが3つほど、あとはカウンター席。マグカップにSTARBUCKS BETHLEHEMというロゴがとても簡易にプリントされて大量に売っていた。メニューはミルクシェイクとかそういうの。そのまま歩いてバス停に辿り着き、バスに乗ってエルサレムへ帰った。朝10頃にエルサレムを出て、戻ってきたのは夕方4時頃だったからかなり歩いたことになる。そういうのが疲れて大変だと思う人はタクシーに乗ってもいいと思う。

これを見ながら行った

こちらの方がわかりやすい

次回、16日目 イスラエルからギリシャへ