「パプリカ」感想・書評

筒井康隆のSF小説「パプリカ」を読んだ。この人の長編小説を読むのはこれが初めてだった。代表作はなんだろうと思って調べていたら「旅のラゴス」っていうのが評判がいい。そのうち読むかもしれない。「パプリカ」の方は映画を先に見ていたため、どうしても映画のイメージが強かったが、映画と原作は結構違った。映画はいわばダイジェスト版であり、映像で魅せる演出が多彩で、内容もしっかり1時間半でおさめられている。原作はもっと長い物語を詳細に描いている。映画にあった目まぐるしく多彩な展開は部分的であり、地道なSF物語がじわじわと進む。

映画のトレーラー

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風呂で本を読む習慣

風呂で本を読む習慣がある。昔からではなく、つい最近の話だ。なぜ風呂で本を読むようになったか。風呂に入ると暇で、すぐにあがってしまう。そして脱衣所に出ると寒い。銭湯や温泉に行ったときは、外が寒いぐらいであっても涼しく感じる。それは体が温まっている証拠だ。自宅の風呂からあがり、脱衣所ごときで寒いようなら、それは体が温まっていない証拠だ。もっと長くつからないといけない。しかし風呂場は暇である。何もやることがない。そんなところでじっとしていられるのはせいぜい数分で、すぐに限界が来る。何か考えようものなら、調べたりメモを取りたくて居てもたってもいられなくなる。

風呂場の暇を解消するために、テレビなんかを置く人もいると思う。しかし僕はテレビを見ないし、そのために買おうとは思わない。スマートフォンを持ち込む人もいるだろうが、僕のスマートフォンは防水ではないから濡れると壊れる。それで本を持ち込むことにした。本も濡れると読めなくなるが、スマートフォンほどの損失ではない。そして余程のことがない限り濡らしたりしない。浴槽の上にフタをして、ハンドタオルを置いてその上で読むからだ。

風呂場で本を読むのはいい。他にやることがないから、読書に集中できる。参考書や勉強の本を持ち込んでもはかどる。湯あたりしやすい人は、思考が働かなくなるのでご注意を。おすすめなのは、風呂に入って体や頭を洗って、他にやることがない状態にしてから湯船につかり、じっくり本を読むことだ。先に体や頭を洗ってしまわないと、本を読んだ後ではぐったり疲れて億劫になる。先に頭を洗っていると、濡れた頭が外気によって冷やされ、湯あたりしにくい。そうやって1時間ばかり湯船で本を読む生活をしている。

ひとつ困ったことは、最近電子書籍の購入が増えたことだ。Kindleやスマートフォンを風呂場に持ち込むのはリスクが高い。だから風呂場で読むのはどうしても紙の本になってしまう。だったら全部紙の本で買ってしまえばいい、という風にはならない。電子書籍には電子書籍の利点がある。例えば夜、電気を消してから布団の中で読むことができる。僕は寝付きが悪いほうで、電気をつけたまま寝ることができない。そして、眠くなってから電気を消そうと布団から出てしまえば、目が覚めてしまう。電気のスイッチまでは歩かないといけない。読書灯のようなものもあるにはあるが、角度によって光が当たらないため、読書灯で本は読みづらい。結局、電気を消した状態で本が読めるKindleは便利なのだ。

風呂場で読む紙の本と、ベッドで読む電子書籍に分ければいい。そりゃあそうだ。しかし僕は、基本的には一冊ずつしか本を読めない。同時進行で紙の本を2冊読んだり、紙の本と電子書籍を交互に読んだりできないのだ(今は例外的に紙の本を2冊読んでいるが)。だから、紙の本であれば紙の本、電子書籍であれば電子書籍、そのときに読んでいる本を読み終えるまで切り替えることができない。めんどくさいやつだ。そういうわけで、ちょうど電子書籍を読んでいたときに一度、Kindleを風呂場へ持ち込んだことがある。ビニール袋に入れて密閉し、水や水蒸気が入らないようにした。その上からフリック操作できるかも確かめた。いざ、風呂場Kindle。

結果、包んだ袋がよれて文字がはっきり読めなかった。無理して読むことはできたが、目が疲れる。これはナシ。おそらく防水キットなんかを探せば売っているんだろうけど、そんなものを買うほどのことでもない。風呂場の電子書籍はあきらめよう。これ、スマートフォンだったらダメなんです。なぜかというと、スマートフォンはいろんなことができるから、風呂場に持ち込んだところで読書に集中できない。初めは風呂場の暇を解消するための手段だったのが、いつのまにか快適な読書環境を風呂場で実現しようとしている。

お題「ひとりの時間の過ごし方」

2017年時点の電子書籍事情と未来予測

2015年の秋頃、アメリカで電子書籍が失速し、紙のメディアに戻る流れがあるというニュースを見て、ホッと胸をなでおろした旧体制の保守派にいる方々は多かっただろう。2012年に紙媒体を廃止し、電子版のみに移行していたNewsweek誌は、わずか1年で紙媒体を復活させた。日本だと2015年に週刊アスキーが電子版へ移行したが、たった半年で紙媒体が復活している。

そうかと思えば2016年にはイギリスのインデペンデント紙が紙媒体を廃止し、電子版へと移行している。ニューヨーク・タイムズは電子版の購読者数を順調に増やしながらも、売上の大半は紙媒体の広告費が占めており、電子版の存在意義は薄い。

いずれも不況の煽りを受けているのか、産業構造の移り変わりに対応しきれていないのか、紙媒体を復活するにせよ廃止するにせよ全体的な業績は下降気味であり、儲かっていない中での試行錯誤であることが伺える。

  • 出版は衰退するのか
  • 出版および電子書籍の現状と未来
  • 具体的な未来予測
    • 高価な「ハードカバー」と安価な「ペーパーバック」
    • 高価な「紙の本」と安価な「電子版」
  • 電子書籍の今
  • 紙の本と電子版を比べる
    • 紙の本のメリット(電子版のデメリット)
    • 電子版のメリット(紙の本のデメリット)
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本気の人はおもしろい「怪魚ウモッカ格闘記」感想・書評

「もうアートなんか超えた、まったく新しいジャンルですよ」

これは当時39歳のノンフィクション作家、高野秀行が「謎の怪魚ウモッカ」を探しにインドへ向かう話だ。約10年前の現代、2006年に書かれた本である。「謎の怪魚ウモッカ」とは、日本人のモッカさん(ハンドルネーム)が1995年にインドのプーリーを訪れた際に、目撃したものだ(魚+モッカの造語でウモッカ)。モッカさんは惜しくもカメラを持参しおらず、その場で描いたスケッチだけが唯一の手がかりとなる。ウモッカのスケッチは現在確認されているどの海洋生物にも当てはまらず、図鑑にも載っていない。海洋学専門家に尋ねてもそんなものは見たことがないと言われる。もしウモッカが確認されれば、シーラカンス以来の世紀の発見になるかもしれない!「怪魚ウモッカ格闘記」の始まりだ。

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やっぱりドストエフスキー読もうぜ!

ピピピのブログで、記事内容を読むのがめんどくさい人用に動画で読みあげるっていうのをやっていたのでパクります。

↑読むのめんどくさい人は再生(30分)

映画の黒澤明に続き、定番シリーズです。別に、自称本好きのくせにドストエフスキーも読んだことないやつってハーン?と言いたいわけではないです。ただ読んでいないなら、やっぱりおもしろいからオススメしたい。そのことを先日「地下室の手記」を読んで改めて感じた。「罪と罰」はもう4、5回読んでいる。「カラマーゾフ」も2回は読んでいる。「悪霊」はまだ読んでいないから読みたい。初めて読む人にオススメしたいのは、先日読んだ「地下室の手記」だ。

  • ハードルの低い「地下室の手記」
    • ロシア人の名前問題
    • キリスト教的価値観
    • 時代設定
    • 本の分厚さ
    • 手始めに「地下室の手記」
  • 意外と読みやすい「罪と罰」
  • 難解でも止まらない「カラマーゾフの兄弟」
  • 頭のおかしい人ばかり
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「地下室の手記」は見てられなかった…感想・書評

「俺は駄目なんだ……なれないんだよ……善良には!」

「地下室の手記」は読むのが大変だった。おもしろくないとか文章が読みにくいとか、話がややこしくてわかりにくいとかそういうわけではなく、目を背けたくなるような内容だから読み進めるのが苦痛だった。ある意味で刺激が強い、というか、テレビや映画などでよく目を背けたいシーンがあるだろう、そういう感じだ。それは決して、映像としての残酷な描写が多いからじゃない。精神の奥底をえぐられるような、これ以上白日のもとに晒すのはやめてくれと叫びたくなるような、思わず本を閉じてしまうような、そういう内容だった。ただ実際は2日で読んでしまった。ページも141ページと多くない。光文社古典新訳で読んだが、19世紀に書かれた本だから時代の違いと現代語の翻訳にちょっと変な感じがあった。それでもおそらく読みやすいのはこちらのほうだろう。これは別の訳で読んでみるとまた全然違ってくるだろうから、別の訳でも読んでみたい。

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本棚

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画質が悪いな。外国文学と旅行ですね。

左上段から、

  • 魔の山|トーマス・マン(岩波文庫)
  • だまされた女/すげ替えられた首|トーマス・マン(光文社古典新訳)
  • かめも・ワーニャ伯父さん|チェーホフ(新潮文庫)
  • 桜の園・三人姉妹|チェーホフ(新潮文庫)
  • かわいい女・犬を連れた奥さん|チェーホフ(新潮文庫)
  • カシタンカ・ねむい|チェーホフ(岩波文庫)
  • 車輪の下|ヘッセ(新潮文庫)
  • 城|カフカ(新潮文庫)
  • 変身|カフカ(新潮文庫)
  • カフカ寓話集|カフカ(岩波文庫)
  • カフカ短編集|カフカ(岩波文庫)
  • 審判|カフカ(岩波文庫)
  • 訴訟|カフカ(光文社古典新訳)
  • 異邦人|カミュ(新潮文庫)
  • ペスト|カミュ(新潮文庫)

下段左から

  • 深夜特急 1〜6|沢木耕太郎(新潮文庫)
  • 旅する力|沢木耕太郎(新潮文庫)
  • 何でも見てやろう|小田実(講談社文庫)
  • ASIAN JAPANESE|小林紀晴(新潮文庫)
  • いつも旅のことばかり考えていた|蔵前仁一(幻冬舎文庫)
  • インドは今日も雨だった|蔵前仁一(講談社文庫)
  • ホテルアジアの眠れない夜|蔵前仁一(講談社文庫)
  • オン・ザ・ロード|ジャック・ケルアック(河出文庫)
  • 世界史 上・下|マクニール(中公文庫)

続き下

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「羊をめぐる冒険」感想・書評

「人はみんな弱い」

「一般論だよ」と言って鼠は何度か指を鳴らした。「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。俺は今とても個人的な話をしているんだ」 下巻p200

「羊をめぐる冒険」は村上春樹の初期三部作と呼ばれる「鼠シリーズ」の最終章である。"鼠"とは登場人物のニックネームであり、物語の主人公の、地元で知り合った友人として登場する(「風の歌を聴け」参照)。高校卒業後に上京して大学に通い、そのまま東京で働いていた主人公は、10年ばかり鼠と会っていなかった。それでも手紙の交流は続いていた。鼠も同じ頃に街を離れ、10年の間各地を転々とさまよい暮らしていた。その合間に鼠は、一方的に手紙を送っていた。やりとりのない一方的な交流だった。最後の手紙で、鼠は二つの頼み事を書いていた。一つは別れた女性に会ってほしいということ。もう一つは同封の写真を、どこか広く人目につく場所に載せてほしいということ。

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「月は無慈悲な夜の女王」感想・書評

「マイク、おまえ疲れているみたいたぞ」

「ぼくが疲れているって?馬鹿な!マン、きみはぼくの正体を忘れたのか。ぼくは心配しているんだ、それだけだよ」

「月は無慈悲な夜の女王」を読み終えた。このタイトルをパロった「君は淫らな僕の女王」というマンガがあるが、内容は全然違う。「月は無慈悲な夜の女王」はSF小説だ。舞台は2075年、人類の一部が移住している月世界。月は昔のオーストラリアのような流刑地として島流しが始まり、三世代が過ぎた。そこは既に月生まれの住人たちが大多数を占めており、もはや囚人の監獄ではなくなっている。月世界では1/6の重力や資源環境、人口分布と長い年月により、独自の生態系が築かれていた。しかし、月世界はいまだ地球に支配されている。地球から派遣された行政府によって管理され、月で生産した食糧は地球に買い叩かれ、監獄でこそなくなったものの、植民地のような形で統治されている。

  • 序盤のネタバレを含むあらすじ
  • 革命の話
  • マイクというAI
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読みたい本がいっぱいある幸福

本じゃなくて映画でも音楽でも舞台でもゲームでもなんでもいいんだけど、僕の場合は最近本でこの幸福を享受している。そうは言ってもたくさん本を読んでいるわけではなく、一日の内に読書に割く時間が長いわけでもない。全く読まない日もある。今年に入ってからはまだ一冊も読み終えていない。今読んでるのがめっちゃ長くて、ページは686ページしかないんだけど本の長さっていうのはページ数よりも長く感じる長さであって、長いなーと思いつつまだ半分ぐらいしか読めていない。

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「帰ってきたヒトラー」感想・書評

上下巻ある長い本なんだけど、昨日1日で読んでしまった。面白かった。2012年にドイツで出版され250万部のベストセラーになり、42カ国語に翻訳された「帰ってきたヒトラー」(原題は"Er ist wieder da"「彼が帰ってきた」)。内容はタイトルの通り、現代にヒトラーがタイムスリップしてきたという話。ヒトラーは地下壕で自殺した記憶をなくしており、2011年のベルリン、地下壕があった場所に現れる。この本は全てヒトラー視点で描かれたタイムトラベル物の小説だ。彼はまだ1945年の戦時下にあると思い込んでいるが、周りの様子がおかしいことに気づく。そしてキオスクの新聞にある「2011年」という年を確認するあたり、バック・トゥ・ザ・フューチャーなど往年の定番タイムスリップ物になぞらえている。

  • 忠実に再現されたヒトラー
  • 蘇ったヒトラーは何をするのか?
  • ヒトラーに扮するヒトラー
  • この本の難しさ
  • 洒落にならない現実
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「タイタンの妖女」感想・書評

「わたしだって、彼らがわたしを仲間に入れてくれるならそうしたろう」

カート・ヴォネガットの有名な本で、特に爆笑問題の太田光が大絶賛していたから名前だけは知っていた。そして岡田斗司夫推薦のSFということもあり、気になって読んだ。タイトルの「妖女」っていうのは原著だと「セイレーン」になっている。ファンタジーによく出てくる妖精か精霊みたいなやつだ。タイタンというのは土星の衛星のタイタンで、コンスタントという男がタイタンに住むセイレーンを追いかけて宇宙の旅をする話。事の経緯は、時間等曲率漏斗という宇宙の狭間に吸い込まれたラムフォードという男が、概念のような存在になり2ヶ月に1度だけ地球に姿を表すようになったところから始まる。彼は過去から未来まで全てを見通せるようになっていた。そしてコンスタントを自宅に招き、後に宇宙旅行をすることになるという予言をする。そのときラムフォードがコンスタントに見せたのは、このタイタンに住むセイレーンが写った写真だった。

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今年読んだ本(2016)

去年おととしと今年の夏まで日本を離れていたせいで、全然本が読めなかった。今年の夏以降はこれまでに比べ本を読み、感想を書いたため振り返ってみた。それでも35冊、月1冊読めばいい方だった以前に比べると多い方だ。僕は一冊読むとその後何日もかけて考え、落とし込むための長い時間を要するから、同時並行で読んだり次々と読むことができない。器用な人はそういうのを読みながら行ったり短時間でこなしたり何冊も同時にできるんだろうけど、僕はなかなかそういうのを一つずつ集中しないと思考がはかどらない。 速読多読より熟読派であり、同じ本を何度も読んだりする。

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「他人の顔」感想・書評

これは主に風呂の中で読んだ。風呂に入ってる最中が暇で、人によってはテレビを置いたりスマートフォンを持ち込んでいる兵もいるかもしれないが、僕はもっぱら本、というわけでもなく、たまたまこの本を風呂の中で読む時間が長かっただけ。

  • 物語の概要
  • 再生し続ける物語
  • 人間関係を構築する絶え間ない応酬
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「スプートニクの恋人」感想・書評

「スプートニクの恋人」を再読した。ああ、このパターンかと初めに思った。「スプートニクの恋人」を初めて読んだのは大学生のときで、話の大筋は記憶していた。そのあと村上春樹の小説をいろいろ読んでから改めて読み返すと、新鮮な気持ちで、ある意味使い古された視点からこの本を読むことになった。

一人の男性が一人の女性を失う物語である。現実がいつの間にかファンタジーと交じり合う物語である。これだけで「国境の南、太陽の西」「海辺のカフカ」「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」「ねじまき鳥クロニクル」と被る(他にもあるだろうけど今は思いつかない)。「スプートニクの恋人」が他の物語と違うのは、失われる女性のことを事細かに書いたところだった。彼女がどういう人間だったのか。何を抱えていたのか。彼女自身の口からも、彼女が残した文書からも語られている。「すみれ」というモーツァルトの歌曲から名付けられた女性を中心とし、彼女を失ったKという男性の物語。感想は「スプートニクの恋人」とその他村上春樹小説を読んだ前提で書いています。

  • 「あちら側」と「こちら側」
  • ミュウについて
  • ギリシャについて
  • すみれは帰ってきたのか
  • 他の作品と比べて
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