前回の続き
イオンで語り合う
お互い2本目のビールはハイネケンを飲み、女の話なんかをしていた。友人が今別れようとしている女性のダメな点、既に付き合っている別の女性の良い点、昔の彼女のぶっ飛んだ点など。僕にはそんな張り合うネタがないものの、趣味や嗜好の相性は大事だよなあっていう話に落ち着いた。僕が今まで付き合った人というのは大体一点ぐらいしか合ったことがないということを言った。なんて他愛のない雑談。
他に旅行についても話し合った。友人はイタリアへ3年、旅行だけなら20数ヶ国、ニューヨークへ1年とベテランで、僕はせいぜい10ヶ国とトロントに1年住んでいるぐらい。どこに行きたいとか、自称旅行者だとかそういう話をしていたら
「中田ヒデの真似してんのか?」
と言われた。僕には全然意味がわからなかったから詳しく聞いてみると、元サッカー日本代表の中田英寿は今現在チャリティを名乗りながら世界各国を渡り歩く自称旅人なのだそうだ。噂では各国を渡り歩き、企業や人間関係を繋ぐブローカーを本業としてやっているらしい。中田といえばペルージャやローマに居た時にインタビューで流暢なイタリア語を操っていたことで話題になった。イタリア語が話せる友人から見ても彼のイタリア語はすごいそうだ。そして中田は英語もすごいらしい。他に簿記一級の試験があるからといって試合出場を断りたいという話があったとか。それ以外にも、一部では有名な話らしいが中田はバイセクシャルだという噂だ。ゴリゴリだそうだ。
まあそんな中田の話というのは特に重要ではなく、僕らはハバナのイオンでビールを2本飲みながらまずい飯を食ってどうでもいい話を延々と繰り広げていた。周りのテーブルではどう見ても子供がタバコを吸いながらビールを飲んでいる。
再びチャイナタウン近くのライス屋へ
時間にして9時頃だっただろうかハバナのイオンはもう閉店しようとしていた。飯がまずくて物足りなかったため、僕らは再びチャイナタウン近くの例のライス屋へと足を運ぶことにした。ハバナのイオンからは位置的にも近い。ライス屋は今日も行列だった。カウンターの前では肉と豆のソースがかかったライスを食べている現地人がいる。
「これこれ、これはどのメニュー?」
友人は店員と客交互に聞いていた。Higanoのという具らしい。それを頼んだ。こんどこそ豆のソースも頼もうとしたら、もう売り切れだった。落胆しながらも僕らはできあがるのを待っていた。せっかくだからどんな店なのか写真を載せておこう。店と言っても個人の家であり、店員と言ってもただの住人なのだ。こういう形態をこっちでは全てCafeteriaと呼ぶそうだ。
現地の人たちに紛れて並ぶ友人
出てきた食事は、レバーだった。レバー、レバーなんて食うのは何ヶ月ぶり、何年ぶりかもしれない。基本的にレバー好きじゃないけれど、これだけ久しぶりで旨い店で食えばうまいもんだ。例のごとく値段は10人民ペソ(約50円)。量はこれだけで十分に腹一杯になるから、先ほど軽く食べている僕は頑張って平らげることになった。
ここのオーナーらしきおばさんが僕らの顔を覚えており、僕と友人は彼女といろいろ話した。「僕と」というのはなんと、彼女は英語を話すのだ。飯がうまくて英語を話すおばさん。友人は彼女について
「きっと若い頃ブイブイいわしていたんや」
とおっさんみたいなコメントをしていた。ホテルの受付等は人によっては英語を話す。高級ホテルでは当然だけど、僕の泊まっているホテルも2人ぐらいだけ英語を話すスタッフがいる。街ではほぼ見かけない。観光客相手にしている人がカタコトで話す程度なのだ。それがこの、現地の人しか訪れない定食屋、それも毎日行列ができる飯屋のおばちゃんが結構な英語を話すとなると、彼女はおそらくアメリカ人か誰か英語話者と付き合っていたことがあるのだろう。僕らは勝手にそんな憶測を立てていた。
アイスを食う
飯を食ったところで、僕らはまた酒を飲もうということになりチャイナタウンを北上した。どこかの旅行情報で「ハバナのチャイナタウンは危険」と書いてあったらしいがこんなに毎日訪れていていいのだろうか。今のところ危険な雰囲気というのは全くない。しかも僕らが歩いているのは夜の9時だったり10時頃だったり暗い時間帯だ。そしてこれもびっくりしたことなんだけど、よくよく見てみればハバナのチャイナタウンには中国人が全くいない。見えないところに住んでいるのかはしらないが、中華料理屋はあっても店員が見るからにクバーナだったり、漢字の看板はあってもやはり客も店員も中国人ではないのだ。中国人がいない中華街は初めて見た(後で知ったが中華街の中心部ではなかった)。
飯屋のすぐ北にアイスが売っていた。そこもよく並んでいる。前回見た時も並んでいた。僕らはそこでアイスを食べることにした。味は5種類ぐらいあるけれど、vainillaはそのままバニラでchocolateもそのままチョコレート、carameloがキャラメルということぐらいしかわからない。fresaとかなんだろうと思って、売っているおじさんに
「fresaって何?」
みたいなことをなんとか聞くと、味見させてくれた。ストロベリーだった。他にもあったけれど味見せずキャラメルにした。これも美味しかった。値段は3人民ペソ(約15円)。現地の人が並んでいる店というのは食事にしてもアイスやジュースも外れがない。
海岸沿いのバー
僕らはそのまま北上し、海岸沿いまで来た。
「俺のホテルの近くやけどいいか?」
そこは海岸沿い、正確には海岸に沿った道路沿いにテラスがあるバーだった。夜の10時頃、客は数えるほど、みんな西洋人の年配の人ばかり。僕らはそんなところで男二人で席についた。お酒はキューバに来てから恒例のモヒートを頼む。モヒートはまだ安いほうだが、お酒はキューバで基本的に高い。モヒート1杯3CUC(約360円)。現地価格としては高くても、海沿いのバーで飲む一杯のカクテルとしては一般的に安いほうだろう。
とにかくモヒートを飲む
僕らはそこでいろいろな話をした。彼がヘビー級のボクシングをテレビで見た話から辰吉丈一郎と薬師寺保栄の試合の話になり(僕らはそれをテレビで見ていた世代だ)、そういう過去の話、友人の過去の話だったり家族の話。彼の家というのは今から20年以上前にアフリカや世界中からの留学生に部屋を貸していたそうだ。そういった経緯もあって彼は今ここにいるのかもしれない。僕にはそういったエピソードというのは全くなかった。誰からも導かれることなくここに来てしまったからこそ、こんなにも中身が無いのかもしれない。そして、これから先のこと、未来のこと。彼には着々と積み上げてきたものがあり、家庭もいつか持ちたいと思っているようだが、その点も僕と対照的だった。
そのあとピナ・コラーダを頼み、結局1時頃まで飲みながら話し合った。その内容をはっきりとは覚えていない。僕らは明日の昼2時にハバナの駅で会うことにして、そのバーで解散した。今日は結局6杯ぐらい飲んだことになる。
次回、キューバ旅行記5日目「おみやげを買う」へ続く
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