前回の続き
バイロン・ベイの日々というのは、あまり書くことがない。2日目、朝食をとった後ロビーで待つ。部屋を移らないといけないため、次の部屋が準備されるまで待機していた。ここのロッカーは有料であり、お金を払ってまで荷物を預ける気にはなれない。そのあたりに置いといても良かったんだけど、急いだところでやることがない。部屋の準備が終わり荷物を置いた。今日は灯台まで歩こうと思った。片道30分ほどのトレイルコースがあり、灯台へ続く道にオーストラリアの最東端ポイントがあるとか。
バックパッカーズを出て歩いていると「図書館はどこか知ってる?」と話しかけられた。「さあ、知らない」むしろバイロン・ベイに図書館なんてあるのか、この小さい町に。そう思いながら灯台の方向へ歩いていると、あった。図書館だった。すぐ近くだ。先ほど話しかけてきた人はもう見えない。今日はまだイースター連休が続いており、図書館は休みだった。明日見に行ってみるか。
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外はとにかく暑い。昨日と同じく上半身裸や水着の人ばかり、海では泳ぐ人でいっぱいだ。そんな中僕は階段を登り、山道を歩いていた。汗をかくが、海からの風がある。灯台近くからは海岸を見下ろすことができた。
灯台から折り返して一度バックパッカーズに戻り、昨日買ったパンやトマトを食べていた。新しい部屋には男性が一人来ていた。スウェーデン人の大学生、メルボルンに留学しており1週間ほどの休みで旅行しているとか。
「ヘッドフォンしているね。ストックホルムへ行った時、道を歩いている人の多くがヘッドフォンしていいたことを思い出したよ」
ここオーストラリアにおいて、ヘッドフォンをしている人はそれほど多くない。
「スウェディッシュは自分の世界に集中したがるんだ」
彼は外出し、僕は歩き疲れていたから部屋で少し寝ていた。
そのうちもう一人の男性が入ってきた。バックパックは担いでいるが、襟付きのシャツを着て中学生ぐらいに見える。ドイツ人だそうだ。僕が言うのも何だがこの場にあまり似合わない。
「君は夜何時に寝るんだ」
何かの会話をしている時に聞かれた。
「なんで?」
「同じ部屋だからだ」
「何時に寝るかなんてわからない。何故そんなことを聞くんだ」
「11時頃か?」
「さあ、11時かもしれないし12時かもしれない」
「俺は10時頃シャワーを浴びたら寝る」
彼はどうやら、10時頃になれば電気を消したいということを言いたかったそうだ。その日僕は、夜外に出た。あまりにもやることがなくて、一人で町から海の方へと歩いた。路上ミュージシャンがところどころにいて、人が群がっている。この町には喧騒がなく、かといって静けさもない。陽気で落ち着いていて、調子のいい町だと感じた。
夜になっても海辺に人が集まっている
夜の海は心地よかった。涼しく、暗闇に星が鮮明で、空を見上げているとそれはまた別の海のように感じられた。流星を見た。中学生の頃、塾の合宿で長野の山に行って以来だったと思う。
それからさらに2日間バイロン・ベイにいた。1日はずっと雨で図書館から出られなかったり、もう1日はやることがなくただブラブラしていた。バイロン・ベイはパースやゴールドコーストなどに比べて滞在費が高い。そして何よりも飽きた。次の日にはニンビンへ行くことにした。バイロン・ベイからシャトルが出ており片道$15、時間にして1時間半ほどかかる。ニンビンというのはバイロン・ベイよりもさらに小さな村みたいなところらしい。シャトルは山道を走っていった。
ニンビンは村と町とか言うよりも、ただの街道だった。二手に別れた道沿いに宿や店があるだけ、予想以上に小さい。そこを外れると山と道があるだけ。少し離れた場所に岩場があり、そこがアボリジナルの聖地だとかなんとか言われていた。ツーリスト・インフォメーションに行って地図をもらい、宿の場所を聞いた。ここにもYHAのバックパッカーズがあり、まずそこへ向かおうと思った。道を歩いているとYHAまでの送迎バンを見かけ、走り去ろうとしていたから止めた。
「部屋に空きはある?」
「さあ、受付まで行かないとわからない。乗っていけよ」
予約はしてないなかったがバンに同乗させてもらった。街道からYHAまでは思った以上に遠かった。さらに山奥へ入り、川にかかっている橋を渡り、登っていった先にあった。ここまで歩くのは面倒だ。部屋がなかったらどうしよう。予約しているであろう人たちに先に受付に行ってもらい、僕は最後にしてもらった。
「予約してないんだけど、部屋はある?」
「部屋はないんだけど、そういう人のためにティピならあるよ。一泊$20」
「なにそれ」
「屋外でインディアンが泊まるようなの」
「テントの事?」
「そうそう、テントみたいなもの」
「見せてもらっていい?それ、ちなみに何人用?」
「5人だけど、まだ誰も来ていないね。こっち来て」
僕はそのティピまで案内してもらった。
少し寒いかもしれないけれど、マットレスも布団もあるから寝られる。
「わかった、ここでいいよ」
「OKay, じゃあ他の説明するからこっち来て。トイレとシャワーは…」
共用設備の説明を受け、宿泊費を払い、そのティピというテントに荷物を移動した。このあたりに何かあるかというと、ただの山だ。今日食べるものなんかも用意しなければいけない。受付の人に聞いてみた。
「近くにお店とかはあるの?」
「タウンまで行かないとないよ」
タウンとは、あの街道だ。この山道を降りるしかない。タウンとYHA間のバンの送迎は、1日2回だけしかやっていなかった。
山道を下っていると、もう一つのバックパッカーズへ続く分かれ道のようなところがあった。そこに車を停めて上半身裸の若者が2人いた。
「どこから来たんだ?ここはどうだ?気に入ったか?さっきマリファナ買ったんだ、こんだけで$40だぜ、少しいるか?」
ニンビンはマリファナで有名なところだった。カナダにいたとき、みんなあまり「マリファナ」とは言わず、weedだとかpotだとか言っていたがこっちでは何故か「マリファナ」が多かったような気がする。
「カメラかっけーな。フィルムか?」
「実はデジタルなんだ」
「フィルムみたいなデジタルか」
彼らとはそこで別れ、僕はタウンに向かって再び山を下った。
ここは本当に小さく、宿とおみやげ屋とレストランしかない。そのうちスーパーらしき店を見つけ、とりあえず僕はその日に食べる用としてお菓子のようなものを買い、また長い道のりを戻った。
ニンビンに来たはいいが、バイロン・ベイ以上にやることがない。再びタウンに戻る気にはならず、近くにあるのは山と川だけ。
僕はそこいらをウロウロするのにも飽きて、ティピに入り寝てしまった。