人を褒める技術について

人を褒めるというのは、簡単でわかりやすい処世術だと思う。会社員になったとき、ようやくそれを少しだけ学んだ。人を褒めるには、ある程度技術が必要だ。それは「いかに自然に、的確に褒めるか」という技術になる。露骨なお世辞や、下心丸出しのベタ褒めは不快な印象しか与えない。また内容が間違っていたり、褒めたことになっていない失敗例も数多くある。

日常生活や職業生活において、ある程度良好な人間関係を築く必要があるなら(誰でもそうだと思うが)、この褒める技術を学んで損はないだろう。自然に学ぶ人も多いと思うが、僕みたいな人間は普段他人を見ていないため、意識的に行わないとできない。ただ褒めるだけということが、上手くいけば意外なほど好感に繋がる。男女ともに効果的だ。

素直な気持ちを発露する

ではどうやって褒めるのか。僕が個人的に学んだ手法を述べてみよう。まずは「素直な気持ち」を発露すること。もちろん褒めるだけだから、ネガティブな面に気づいても口にせず、ポジティブな部分だけ発露する。自分の感じた「かっこいい」「キレイ」「斬新」「凝っている」「いい香り」「おもしろい」「ほしい」「好き」といった直感を言葉にすることが、褒める上での基本原則となる。変に着飾った言葉や嘘の言葉で固めるより、シンプルで偽りないほうがよほど印象がいい。

無意識下にある印象を拾う

でもこういう他人の印象って、普段から相手を見ていないと気づかない。僕なんかは通常、人に対して何の印象もないことがほとんどだ。だから、褒めるべき対象と向き合うことがあるなら、普段から相手を見るよう努力しなければいけない。何の興味も関心も印象もない人に対して行われる、継続的な対人コミュニケーションの基本は経過観察だ。

意識的に人を見ると、無意識下にあった相手に対する印象が浮かび上がってくることもある。「あーなんとなくあの人のカバンいいと思ってた」とか。そういうことってけっこう無意識に思っているから、無意識下に潜ってみないと気づかないことが多い。そういう無意識下にあった「素直な気持ち」を拾ってこられたら、褒める対象も広がる。

褒め言葉のストックを作る

僕は口下手だから、その場で思ったことがうまく口に出来ず終わることが多い。人を褒めるような言葉は尚更だ。それでもなお「褒め」戦略を活用したいときは、あらかじめ何を言うか考えておくことにしている。つまり「褒め言葉」のストックを作っておくのだ。ストックは全体のストックではなく、一人の相手に一つずつポートフォリオを作る。メモなどに具体的に書き出して溜めていく。状況や場合に応じて使い分けられるように、あらゆるパターンを用意しておく。

ストックに関しては褒め言葉のみに限らず、趣味嗜好や質問したいこと、話題テーマなども一緒に残しておくことが多い。器用に人付き合いをこなす人だったら、こういうことは脳内で瞬間的に行うんだろうけど、僕はメモしている。書いて使っていくうちに、ある程度脳内のストックも溜まっていく。

いざ、言葉にする

いざ言葉にするのはけっこうハードルが高い。人を褒めるなんて恥ずかしいし、勇気がいる。自分みたいな人間が褒めてキモがられないか不安だ。でもそういった気持ちははっきり言って全部ムダだと言える。「褒める」戦略を行うときは仕事だ。良好な人間関係を構築・継続するためのミッションであり、割り切った行動が求められる。お前の気持ちなんか知ったこっちゃねえよって話です。私情を捨てましょう。

そんなことを言っても人を褒めるときは緊張するし、変に思われないか不安になる。そんな状態で人を褒めたらやっぱり不審がられる。「何か裏があるのではないか?」と思われがちだ。人を褒めるときの態度として望ましいのは、「いかに軽々しく」なおかつ「嘘っぽくないか」だ。軽々しく自然に人を褒めるには、数をこなすしかない。数をこなせば人を褒めることに対してなんとも思わなくなってくる。すると「自然で軽々しい雰囲気」が身につく。褒め慣れよう。

まずは褒めやすい相手から基礎練習しましょう。褒めやすい相手とは、褒められ慣れている相手だ。こっちが褒め慣れておらず、気負って不自然な褒め言葉を投げかけたとしても、軽くさらっと受け流してくれる。いびつな褒め言葉をかけてしまったら、いい人だったらアドバイスをくれたりする。褒められ慣れている人は、褒められることに対して特別な感情を抱かないため、練習相手としてはこれ以上にない抜群の相手だと言える。相手に敬意を払い、ちゃんと褒めるようには努力しましょう。

上級編:的確に褒めるには

「嘘っぽくない褒め言葉」は、上に挙げた「素直な気持ち」を発露することが基本となる。嘘をつかないこと。その上位互換にあたる「的確な褒め言葉」を用いるには、一定の見識と観察力が必要となってくる。

「的確な褒め言葉」とは「相手が望む褒め言葉」だ。相手のどこを褒めれば特に喜ぶか、それを見抜き、ターゲットを絞って的確に攻める。「かっこいい」「キレイ」といった単純なワードは一度しか使用できない。「どこがいいのか」「どういいのか」「なぜいいのか」を具体的に表現しなければいけない。なおかつそれが相手の求める方向性と合致する必要がある。

だからこそ、一定の観察力と見識が問われる。流行やブランド、髪型、メイク、肩書、センス、腕前、技術、知識、努力、実績、今日特に褒められたい部分を見抜くには、普段からの変化にも注目しなければならない。相手が今日特に力を入れている部分はどこなのか、褒めてほしいと望んでいるのはどういうところか、どのように褒めれば効果的か、その分野の知識は十分か、武器の貯蔵は足りているか!

継続的に褒めるには

この上級編は、実は誰でも準備しなければならない。「素直な気持ち」で褒めるだけが通用するのは最初の数回に限られている。それ以上繰り返していると中身の伴わない言葉か、ただのバカだと思われてしまう。良好な人間関係を継続するための一環として「褒め」戦略を用いるのであれば、不断の更新と努力が求められる。「褒め言葉」ストックの更新、あらゆる分野における知識の更新、たゆまぬ経過観察から、変化を敏感に察知し、そのとき相手が望む褒め言葉を投げかける必要がある。

僕はこの域に達していないから、「軽々しく」「嘘っぽい」になっている。嘘っぽさは照れ隠しとしても作用している。