「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」ネタバレ・感想・評価

「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」を見た。なんちゅうタイトルだ。原題は「Rebel in the Rye」でそのままライ麦畑の反抗者とかそんな意味。この映画で反逆児とか反抗者って言われてもいまいちピンとこないが、それ以上に邦題の「ひとりぼっちのサリンジャー」なんて部分はいらないし、この映画におけるサリンジャーは全然ひとりぼっちではない。ひとりぼっちになっていく物語とでも言えばいいか。サリンジャーという人やその作品に孤独性みたいなものがあるとしても、この映画でそういうところは描かれていない。むしろ親姉妹と仲良くやってるじゃん、友達いるじゃん、師匠に恵まれてるじゃん、編集者とも会社ともうまくやってるじゃんという場面ばかりが映画のシーンとして登場し、意外に思える。あれ、これ誰の物語なんだっけ、と。これの一体どこが孤独なんだよ。

映画『ライ麦畑の反逆児/ひとりぼっちのサリンジャー』公式サイト-2019年1月18日公開-

コメディ映画でしょコレ

だから僕みたいなサリンジャー好きがこの映画を見ると、コメディに見えた。というか、これ本当にコメディだろ?って。だって事あるごとに「インチキだ!」なんていかにもなお約束セリフを吐くあたり、サリンジャー本人やサリンジャーの作品が好きな人だったら胸焼けするシーンだし、恋人にふられたり暴漢に襲われたり何か嫌なことがあるたびにペンを走らせて小説のネタにするくだりや、小説が書けなくなるたびに瞑想するところなんかはもう、よしもと新喜劇を見ている気分だった。だって何度もそれをやるからね。お約束お約束。

ニコラス・ホルトは適役か?

この映画がこんなにもコミカルタッチな理由の一つとして、サリンジャーを演じていた俳優のニコラス・ホルトがある。サリンジャーその人は作品を読めばわかると思うけれど、超神経質な感じの文章やキャラクターを書く。本人の逸話を聞いても、まあ気難しい人なんだろなという想像がつく。しかし、そんなサリンジャーをニコラス・ホルトが演じると、ドラマやマンガ的なハンサムの駄々っ子にしか見えない。ニコラス・ホルトはSKINS以来に見たが、あーいう見た目が良くて酷いことをするキャラクターのほうが合っていると思う。サリンジャーを演じるにあたり、コミカルな演出をしたかったなら適役だったかもしれないが。

もしかすると、サリンジャーその人も周りからはこういう風に見られていたのかもしれない。サリンジャーの書いた作品から実像を描こうとした映画ではなく、周りの視点を集めて客観的なサリンジャー像を描いたらこうなった、という映画ならあり得るし、理解できる。そんないかにも滑稽なサリンジャーが描かれている映画だった。声出して笑ったりはしないけれど、おかしい映画。

読んだことのない観客

ただまあこれを、サリンジャーを読んだことがない人の意見を聞いてみると、よくあるクリエイター系、アーティスト系物語ということだった。特に滑稽だとも思わなかったようだ。そもそもこの映画、サリンジャーを読んだことがない人が見るのか?と思っていたが、上映終わりの会話が聞こえたりFilmarksのレビューなんかを見ていても、圧倒的に読んだことない人が多い。サリンジャー知らない人がなんでこの映画を見ようと思うんだ?大して話題にもなっていないのに。

映画館では「ライ麦畑でつかまえて」といったサリンジャーの著書も売られていたが、映画と全然違う印象を受けてしまうよ。この映画見てから読んでも。どうなんだろう、少なくともホールデン・コールフィールドをニコラス・ホルトで再生するのは無理があると思うんだけど。

映画全体として

創作者映画としてはおもしろい面もあったけれど、やはりどうしても踏み込みが足りない。まだ「ビューティフル・マインド」とかのほうがそれっぽいんじゃないか。あれは数学者の映画だったが。

映画が単調になった理由は、物語を長く描きすぎているからだろう。作家になる前から引退するまで全部描いてしまっている。どこが山場なのかわからない。どこかに集中して描けばこうはならなかっただろうに。一応メインはキャッチャーを書くあたりなんだろうけど、そこで終わらせればよかったものの、森の奥で隠居するところまで撮ってしまったから。

サリンジャーの物語として、若いうちに人里離れた森に隠居してしまったという事実が外せないのもわかるんだけど、映画全体のオチとして先生との会話をもってくるには引っ張りが長すぎるし、もともと伏線として印象に残るほどのシーンでもなかった。一人の若者が作家を目指し、売れっ子になって引退するまでのありきたりな物語を淡々と見ることができる映画、っていう意味ではコンパクトにまとまっているかもしれない。この映画が嫌いとか酷いとかっていう話ではないが、僕にはコメディとしてしか見れなかった。サリンジャーの映画だし評価も高かったからおさえてはおきたかったけれど、もう一度見たりはしないだろう。

サリンジャーも「ライ麦畑」もいろんな評論が出たりしているんで、これを機に他にも手を付けてみてもいいかもしれない。特にサリンジャーは周りからどう見られていたのか、とか。

サリンジャー ――生涯91年の真実

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サリンジャー (-)

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我が父サリンジャー

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