アメリカの内戦を描いた映画、ぐらいの前知識で見に行った。でもこれは架空のアメリカ内戦を舞台にしているだけで、描かれている内容はほぼ報道写真家、記者の仕事だった。戦場でどんなふうに取材しているのか、どういう心持ちで現場にいるのか、初めはどうだったか、この仕事を続けるうちにどうなるのか。だから架空のアメリカ内戦が舞台であっても、その心情だったり仕事ぶりはかなり真に迫るものがあった。映画だからドラマチックな展開もあるけど、ジャーナリストを褒め称えるような作りにはしていない。そのまま描いている感じ。
この映画が、今現実に起こっているパレスチナやウクライナを舞台にしていたら、おそらく見ていない人が大勢いたと思う。関係ないところで日々を生きる我々には、現実は重すぎて受け止められない。他人のふりをしておきたい。フィクションだから見れる、受け止められることがあった。このアメリカ本土が戦場になっている映画を見て、やはり日本が戦場になったらということを考える。隣人が敵になり、市政の人がバンバン人を殺すようになり、兵士も民間人もただの数になり、崩壊した日常は遠い昔になる。僕らが経験した緊急事態としてはコロナ禍があったけど、あれも医療現場にいない僕たちにとっては実態の見えない緩やかな不安だった。
今現実に起こっている戦場にいる人は、この映画よりもっと悲惨だろう。ジャーナリストにとっては仕事の現場であり、常に身近にある出来事だろう。舞台が他国であろうと自国であろうと、やる仕事も同じ。一時期僕は、報道写真をたくさん見ていた。ジャーナリストの書いた本を読んだり、ジャーナリストについて書かれた記事を読んだりもしたことがある。僕にはこの仕事はできないなーとつくづく思った。すぐにメンタルが壊れる。この映画でもけっこうそういうところが描かれている。今まさに死にゆく人を見すぎて、それを淡々と撮ることに浸かりすぎてノイローゼになる人、躁鬱、気を紛らわすための酒タバコマリファナ。この映画を見た感想として「この仕事できないなー」が真っ先に思い浮かんだ。こういうのが日常だったら、やっていける気がしない。平穏に暮らしたい。
同時に、報道写真的な画作りが美しくて見やすかった。報道写真が好きな人は、この映画全体が報道写真っぽいから好きになるんじゃないか。
主演はキルスティン・ダンストで、主人公の報道写真家を演じている。若い頃にスパイダーマンのヒロインしか見てなかったから、こんな役やるんだ。常に疲れ切った顔をしている。夫婦で出演しており、夫のジェシー・プレモンスはまたすごい役で出ている。マジで怖い。
同行する男性ジャーナリスト役をやっているヴァグネル・モウラ、どっかで見た顔だと思ったら、ナルコスのパブロ・エスコバルだった。こちらも役柄は全然違う。当然だけどこの映画ではマフィアのボスの怖さは全くなく、いわゆるステレオタイプなイカれた戦場ジャーナリストを演じている。