猿岩石日記を読んだ

深夜特急をはじめ、いくつかの旅行記を読んできた。しかしなぜか、猿岩石日記はこれまでに通らなかった。理由の一つとして、あまり見かけなかったというのがある。猿岩石日記は250万部売れたベストセラーであるにもかかわらず、今ブックオフなどで売られている姿をほとんど見かけることがない。それこそ僕が中学生、高校生の頃には必ずあったような気がする。しかし当時は旅行本なんて読まなかった。

猿岩石日記は「ブックオフ大学ぶらぶら学部」でその名前を見かけ、そういえば読んでいないなーと思いメルカリで購入するに至った。まちなかの本屋、ブックオフには並んでいないけれど、メルカリやブックオフオンラインには在庫があり、購入することができる。Amazon等でも中古なら手に入る。1996年だから、25年近く前の本か。もちろん絶版。

猿岩石って誰?

そんなに前のことだから、猿岩石をよく知らない人もいるだろう。電波少年だって今の若い人は知らないはずだ。猿岩石とは、当時有吉が所属していたお笑いコンビ。その猿岩石が電波少年という日本テレビの深夜番組で、ユーラシア大陸横断ヒッチハイクという企画をやらされた。期間は半年以上、その間猿岩石が日本に帰ることはない。当時まだペーペーだった猿岩石は他に仕事もなく、半年以上スケジュールが空いているコンビということで抜擢された。有吉は当時21歳。このユーラシア大陸横断ヒッチハイクの途中で誕生日を迎え、22歳になる。

ユーラシア大陸横断ヒッチハイク

ヒッチハイクは香港からスタートし、ゴールはイギリスのロンドン。ルールは、徒歩及びヒッチハイクだけで移動すること。お金をもらわないこと(物をもらったり働いてお金を稼ぐのはOK)。電車に無賃乗車していたこともあったが、現地の人にそそのかされて知らずにやったこととしてノーカウントにされている。後にオフレコで飛行機に乗っていたことが発覚するが、日記から外れるため今回その話は抜きにしよう。

この企画の存在は、当時から知っていた。爆風スランプが猿岩石のために作った応援歌「旅人よ」も知っていた。

しかし当時僕はまだ小学生だったこともあり、深夜の放送は見ていなかった。ときどき放送されるゴールデンタイムの特番を見ていた程度で、ユーラシア大陸をヒッチハイクで横断するという旅がどういうものだったかは、今回猿岩石日記を読んで初めて詳しく知ることができた。

まあ、めちゃくちゃだ。猿岩石は旅の所持金として、番組から10万円を渡される。この10万円は序盤のビザ代で早々に使い切ってしまう。そこからは無一文の旅が始まる。猿岩石に同行するテレビのカメラマン兼ディレクターはもちろんお金を所持し、ホテルに泊まっている。猿岩石はお金がないため野宿が続く。虫に刺されまくったり、荷物を盗まれたり、襲われそうになったりする。お金がないからご飯を食べることもできず、2,3日何も食べないのは当たり前の日々が続く。こんな旅行、過酷すぎる。こんな海外旅行、個人では絶対にやらない。危なすぎ。「最悪の場合ギブアップできる」というテレビの企画だから成り立つ。それにしてもめちゃくちゃ。よくこんな企画が通ったなあと思うが、電波少年は当時そんなことばかりやっていた。今のYouTuberみたいなもんだ。

猿岩石日記

番組が進むに連れて二人はガリガリにやつれ、病気にかかって入院することもある。そんな彼らがどうやって香港からイギリスまでたどりつくのだろう?というのがこの本の主旨となってくる。本の中身は、旅の途中に書かされていた日記をそのまま出版したもの。文章の素人が書いた日記だから、内容は本当にただの日記。漢字の誤字があまりにも多く、正しい漢字がどれだったかわからなくなってくるほど。

猿岩石は英語および現地の言葉がわかるわけでもなく、現地の人とのやりとりはデタラメに書かれている。それ以外にもウソというか妄想というかてきとうな箇所が多い。有吉パートは特に全編にわたってそんな感じだ。そんなめちゃくちゃな日記ではあるが、旅の概要が最初から最後までわかり、おもしろく読むことができた。本当にいまさらではある。

最初のうちはただヒッチハイクを進めて移動することになるが、無一文になって以降、タイあたりからビザ代を稼ぐために働くようになる。不法就労、アンダーザテーブルというか、数日間お手伝いをしてお小遣いをもらう程度の労働。こういう働き方は海外でも日本でもよくある。そのうち、

バイト→ビザ代→ヒッチハイク→ドライバーからバイトを紹介してもらう→バイト

という移動のサイクルができあがる。このサイクルが続く間は、猿岩石は野宿することも飢えることもなく、安心して見ていられる。ゴールを目指すのが目的のため、バイト先には数日しか滞在できない。別れのたびに二人は涙している。その他にも猿岩石は、出会う人出会う人いろんな人々に、物をもらったりごちそうになったり親切にされている。猿岩石が海外で出会う人たちはめちゃくちゃいい人たちばかりだ。日本ではこういう風に親切にされることって、あまりないだろうなーと思う。実際には悪いこともたくさんあって、それもちゃんと書かれているが。

旅行記と言っても野宿と移動を繰り返すだけのバックパッカーに近い。タージマハルに行ったりはしているが、観光も何もほとんどしていない。そういう移動の記録を読みたければ楽しんで読むことができる。ヒッチハイクは車がつかまるまで7時間とかかかることもある。車がつかまってもトラックの荷台ばかり。舗装もされていない道を9時間とか移動する。絶対に真似したくない。

僕はこんな猿岩石日記みたいな経験はないけれど、でもこの「海外で一皮むける感じ」はなんとなくわかる。お金がなくても、知り合いがいなくても、言葉が通じなくても、なんとかなるんじゃないかっていう感覚は経験したことがある。だから猿岩石日記を読んで、どこかなつかしい気持ちにもなった。

猿岩石が海外のいろんな国で、毎日野宿していたから、「野宿なんて大したことない」と思えるようになった。猿岩石が何週間もずっと風呂に入らず旅をしていたから、「風呂に入らないことぐらい大したことない」と思えるようになった。猿岩石が2、3日何も食べない日々を何度も繰り返していたから、「1日や2日絶食しても大したことない」と思えるようになった。猿岩石がいろんな国で何度もバイトしていたから、海外でもバイトぐらい出来るんじゃないかと思うようになった。猿岩石は僕の限界を拡げたと思う。

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今週のお題「読書感想文」