「都会なんて夢ばかり」を読んだ

まず最初に、フォークなんて今の時代に歌っている人がいるんだーと驚いた。全然知らなかった。だから最初にCDを聞いた。聞いてみて、確かにフォークってこんな感じだった気がする。でもフォークがなんたるかは全然知らない。さだまさしも南こうせつもモノマネやコントで見たことがあるぐらい。僕の世代の人は「LOVELOVEあいしてる」で吉田拓郎を知ったと思う。馴染みがない。長渕剛もフォークなのか?

湿度の高い歌だった。日本的だと思う。日常生活の機微を歌っているという感じがした。言われてみれば私小説っぽいところはある。他のジャンルに比べて、共感を呼びやすいかもしれない。本の内容は、歌を補完するようなものだった。本と歌をいったりきたりすると、その空気であったり世界観がよりクリアに見渡せる。

本の中身は、世田谷ピンポンズの東京での暮らしを綴った日記、記録といった感じ。上京組の心理とか心情ってこういうところあるのかもなーと思う。大学進学で上京した人より、ミュージシャンとか芸人とか目指して上京している人だったら、自分の仲間が書いた本のように読めるんじゃないか。初期ブログ的でもあると思う。

実に庶民的で、ちっぽけだと思う。世田谷ピンポンズの歌っていることや、書いていること、体験したこと、生活、どれも特別なことはない。ただその、歌を作って歌っているということは特別だと思う。中身はそうじゃない。普通。この本に書かれていることも極めて普通の日記。だからこそ、誰でも読めるし、誰でもその情景を思い浮かべることができる。

すごくダサくて、かっこいいことをやろうとしていないところがいい。特に、この本の序盤のダメな空気が、かっこわるくて非常によかった。大学へ入ったけれど友達がいなくて、彼女もいなくて、自意識が強くて、世間に対する羨みと憧れだけがあって。ネットだけが唯一、二次的に人と関わる手段だった大学生の頃。世田谷ピンポンズには、ぜひずっとそのままでいてほしかった。そのままの状態で歌を歌い続けてほしかった。

後半になり、彼女ができてバンド仲間ができて、バイト仲間ができて、もうこんなのは全然読みたくない。歌が評価されたり、CDが出る下り。ライブが受け入れられるところなんか、僕の観点からは全く面白くない。世田谷ピンポンズが人と関わるようになり、世に出て少しずつ認められていく過程は喜ばしいことなのだろう。それはわかる。いい話だということも。

でも序盤のどうしようもなくダメで、鬱屈としていて、かっこわるい世田谷ピンポンズこそが輝いていた。そのときのことを、うまくいってる今となってもこれだけ克明に綴っているのだから、大切にされているんだなと思う。僕は何もできない、何をやってもうまくいかない世田谷ピンポンズこそを、もっともっと見たかったです。

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