夢で見る自分の姿

寝て見る方の夢です。人の夢の話を聞くのが何よりも嫌という人が世の中には一定数いて、これからその話をします。僕はよく、同じ夢を見る。内容が全く同じという意味ではなく、夢の中で、いつもの標準的な自分の姿を見る。夢の中の僕は、途方に暮れていて、貧しくて、一人で、明日をも知れない生活をしている。いつも同じ。

例えば昨日見た夢。僕は日本に帰国したばかりで、地元の駅にいた。年齢は30代、荷物はバックパックが全て。これからどこに泊まるか考えている。今さら実家にも帰れず、でもお金がないから最終的には帰るしかないのかと考えている。

とりあえずどこか泊まるところを探して、働き口を見つけ、その日暮らしにしても、生活費を手に入れないといけない。知り合いのつてを探している。誰に相談できるだろう。やりたい仕事とか、やりたくない仕事とか言ってられない。今手元にあるお金で何日もつだろう。夢の中で僕は、妹に連絡を入れていた。実家から何か自分の荷物を持ってきてもらっていた。

こういう生活が長かった。貯金を切り崩しながら、毎日最低限の出費で暮らす。なるべく家賃の安い部屋に住み、バイトをして、この次にどうするか考えながら今をやり過ごす。意味も目的も発展性もない時間。ただ暮らすだけ。飽きると場所を変えていた。同じことが続くだけなら、この先に展望などなくてもとりあえず行ってみるかと思って、次に進む。その繰り返し。

最初に、先がないというか、先に望むことが何もないなと思った。それから月2万5千円の部屋で、何もせず毎日ダラダラと暮らしていた。ときどき少しだけバイトをした。本当はもう少し続けるつもりだったけれど、このまま同じことを続けても退屈だと思い、半年で切り上げることにした。人生で一番自堕落な半年だった。

それから初めての土地に来た。ここからどうするか、いろいろ調べた。とりあえず安いところに寝泊まりして、バイトを探した。特殊技能があるわけではなく、どこも雇ってくれなかった。募集自体が少なかった。その間もっと安いところに引っ越した。2ヶ月ほどただバイトを探し続けた。

ネットで見つけた、寮付きの肉体労働のところへ行くことにした。今度は郊外へ引っ越し。そこでまた初めてのバイトをする。怒声を浴びせられ、うんざりされ、我慢しながら努力して仕事を覚えた。めちゃくちゃつらいわけではなかったけれど、やはり退屈な日々だった。心身と時間を摩耗していた。半年続けた。

次に何をするとか、あてもなくバイトを辞めて寮を出た。また別の街に引っ越した。バイトを探して、トライアルを受けるが全然できない。自分はもともとデスクワークしかやってこなかったから、手を動かしたり急がなければいけない仕事が何もできない。潰しが効かない。このままだと肉体労働で貯めた貯金を切り崩すだけになる。

別のことをやろうと思った。前々から少し考えていたけれど、引き伸ばしていた。もう他にやることがない。実家に帰り、次のことを始めるまでいさせてもらえるように頼んだ。説明会へ出向き、勉強して、面接を受けた。二次面接へ進み、落ちた。

とりあえず目の前の目標として掲げたものに届かず、でも他にやることがなく、もう一度受けることにした。今度は一次選考で落ちた。実家に居座って二度の選考期間が過ぎ、1年が経っていた。毎日酒ばかり飲んでいた。そろそろ働いてくれと言われ、バイトを探した。何もできない自分にもつとまる、居るだけでいいバイトが見つかった。一人で生活できるほどの給料は出ないため、実家から通った。

親からはもうあきらめろと言われたが、あきらめても他にやることがない。三度目を受けた。前回、前々回の傾向と対策を練った。その期は応募人数が少なかったおかげで通った。1年続けたバイトを辞め、2年居座った実家を出た。研修に入り、ひたすら勉強が始まった。

それは僕に向いているとか、やりたいとか、そういうことではなかった。とりあえずそちらに進んだからやるだけ。ただ目の前のことに取り組んだ。特に優れた成果は出なかった。あいかわらず意味や目的もない。その場しのぎ、続けられなくなったらまた次を探す。その繰り返し。これが3年前のことで、今はもうその現場にいない。

そういう生活をずっと続けてきた。思い返せば、子供の頃からずっとそうだったんじゃないか。僕にとって生きるということは、こういう無為な時間を過ごし、また繰り返していくことだった。その間作っては崩し、作っては崩し、何一つとして積み上げてこなかった。

知り合う人はその場限りの付き合いで、次の場に移れば連絡を取り合うこともない。すぐ疎遠になった。お互いがその存在を忘れていった。その場限りの意味や目的や人間関係は、その場限り以上のものにはならなかった。

会社員を辞めるとき、偉い人から「これからどうやって生きていくのか」と聞かれた。サラリーマンとして転職しないことを伝え、この先のことはわからないと言った。僕自身が本当にわからなかった。わからない、ではいけないのだろう。でも僕は彼らと違って、嫁も子供もおらず、責任はないと思っていた。

今は一旦落ち着いている。かろうじて生活できている。目先のことを考え、お金を貯めたりしている。いつまで続くかはわからない。今の落ち着いた状態がずっと続けばいいと思っている。それでも寝て夢の中で見るのは、馴染みのある毎日。僕は途方に暮れていて、貧しくて、一人で、明日をも知れない生活をしている。それが本来の自分の姿なのだと思う。